著者:知念実希人


教授の紹介で美容外科医・柊貴之のもとで働くことになった麻酔医・朝霧明日香。自らを芸術家と称し、金さえ積めばどんな手術でも請け負う柊の姿に明日香は反発を覚えるのだが……
というクリニックで起きる手術依頼の謎を解いていく連作短編形式の作品。
とりあえず、読んでいて思ったのは、柊の口調とかが天久鷹央にそっくりだな、ということ。天才医師という設定だとこういう口調とかの方がキャラクターが立つ、っていうことなのかな? そういうわけで、キャラクター重視の作風ということも共通していると言えよう。
物語としては、「妻を死んだ元妻と同じ顔にしてほしいという社長」「隠し子を別の顔にしてほしいというヤクザの組長」「最高の顔にしてほしいという女優」と言った依頼を受け、そのやりとりなどから、彼らが一体、どういう理由でその手術を求めるのか? そして、その問題を解決するのに最も良い方法とは? ということを探り上げ、そしてその最高の形でそれを実現する。ミステリというと、なぜ、その手術を受けるのか? というホワイダニットの作品のように思えるけど、どういう風に解決するのか? という部分が主となっているハウダニット作品という印象が強い。
それが一番、大きく感じられるのは3章の『虚像の破壊』。先に書いた内容では、最高の顔にしてほしい、という女優の依頼。すでに、何度も整形手術を受け、これ以上やれば……という状態。その中で、彼女が抱えているのは醜形恐怖症。しかし、それでも手術を決行した柊が行った結果……。ベタっちゃあベタなのだけど、原因とかは早い段階で明らかにしつつ、看護師・早苗の過去などを交えて美容整形の意義を説明し、サプライズの形で決着させる、というのは作品のカラーを象徴しているように思う。
そして、物語の中で、柊について様々な疑惑が挟まれていく。柊の弟子であった神楽は、連続殺人鬼であった。しかし、タイへと逃亡し、そのまま捕まっていない。柊も同じ時期にタイへと向かっている。そして、再び……。柊は、弟子を殺人鬼の神楽を助けるためにタイへ? そして、殺人を間接的に補助? という殺人事件についての疑惑へと連なっていく。だが……
ぶっちゃけ、犯人が誰か、とか、その辺りについては登場人物の数から絞り込める、というメタ視点での欠点はある。ただ、悪ぶっていても、決して悪徳とは思えない柊の性格。そして、入れ替わりトリックを美容整形などを上手く絡めて処理をしている。天久鷹央シリーズもそうなのだけど、比較的、ベタなトリックを上手く医療ネタと絡めて解決する、というのが著者の持ち味なのだな、と再認識した。
……と言いつつ、指紋とか、DNAとかはどうしたのだろう? とふと思ったのは秘密。
No.4626

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当記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
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教授の紹介で美容外科医・柊貴之のもとで働くことになった麻酔医・朝霧明日香。自らを芸術家と称し、金さえ積めばどんな手術でも請け負う柊の姿に明日香は反発を覚えるのだが……
というクリニックで起きる手術依頼の謎を解いていく連作短編形式の作品。
とりあえず、読んでいて思ったのは、柊の口調とかが天久鷹央にそっくりだな、ということ。天才医師という設定だとこういう口調とかの方がキャラクターが立つ、っていうことなのかな? そういうわけで、キャラクター重視の作風ということも共通していると言えよう。
物語としては、「妻を死んだ元妻と同じ顔にしてほしいという社長」「隠し子を別の顔にしてほしいというヤクザの組長」「最高の顔にしてほしいという女優」と言った依頼を受け、そのやりとりなどから、彼らが一体、どういう理由でその手術を求めるのか? そして、その問題を解決するのに最も良い方法とは? ということを探り上げ、そしてその最高の形でそれを実現する。ミステリというと、なぜ、その手術を受けるのか? というホワイダニットの作品のように思えるけど、どういう風に解決するのか? という部分が主となっているハウダニット作品という印象が強い。
それが一番、大きく感じられるのは3章の『虚像の破壊』。先に書いた内容では、最高の顔にしてほしい、という女優の依頼。すでに、何度も整形手術を受け、これ以上やれば……という状態。その中で、彼女が抱えているのは醜形恐怖症。しかし、それでも手術を決行した柊が行った結果……。ベタっちゃあベタなのだけど、原因とかは早い段階で明らかにしつつ、看護師・早苗の過去などを交えて美容整形の意義を説明し、サプライズの形で決着させる、というのは作品のカラーを象徴しているように思う。
そして、物語の中で、柊について様々な疑惑が挟まれていく。柊の弟子であった神楽は、連続殺人鬼であった。しかし、タイへと逃亡し、そのまま捕まっていない。柊も同じ時期にタイへと向かっている。そして、再び……。柊は、弟子を殺人鬼の神楽を助けるためにタイへ? そして、殺人を間接的に補助? という殺人事件についての疑惑へと連なっていく。だが……
ぶっちゃけ、犯人が誰か、とか、その辺りについては登場人物の数から絞り込める、というメタ視点での欠点はある。ただ、悪ぶっていても、決して悪徳とは思えない柊の性格。そして、入れ替わりトリックを美容整形などを上手く絡めて処理をしている。天久鷹央シリーズもそうなのだけど、比較的、ベタなトリックを上手く医療ネタと絡めて解決する、というのが著者の持ち味なのだな、と再認識した。
……と言いつつ、指紋とか、DNAとかはどうしたのだろう? とふと思ったのは秘密。
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- 2018.01.16 (Tue) 22:39 | 刹那的虹色世界