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(書評)璃子のパワーストーン事件目録 ラピスラズリは謎色に

著者:篠原昌裕



パワーストーン雑貨店でアルバイトをしている女子大生・雫石璃子。彼女の周囲で不思議な事件に遭遇した時、彼女は、鉱物学者である兄・英介に相談を持ち掛ける。そんな形で綴られる連作短編集。
うーん……なんか、思っていたよりも、パワーストーン、鉱物と言った要素が薄かったような気がする……
とりあえず、1編目の『砕き魔ロード』は、その意味では一番、鉱石要素があったかな?
最近、学校の中で「砕き魔」なるものによる事件が頻発しているという。校内では、石を砕く謎の人物が目撃され、そして、砕き魔によって窓ガラスが割られる、という事件も発生した。璃子は、兄と共に目撃者に聞き込みをして……。ある意味、真相そのものは脱力もの、という部分がある。しかし、目撃証言の中の矛盾点などをついて話を整理していく方向性。そして、その中で物語全体を通しての謎へとつなぐ形の真相の一つを示す、と上手くまとめられた話だと思う。
ただ、そのあとのエピソードはあまり……という印象。
例えば、3編目は璃子の知人である涼子が恋人の森野と距離を感じてしまっている、という話。優しくて、公平な視点を持っているように思える森野。そんな彼の抱えている問題。……ちょっとした会話、その中のある言葉に対する反応から……というのは良いのだけど、正直、あまり鉱物とかと関係がないような気がする。また、4編目、璃子のアルバイト先で起こる万引き事件。その容疑者として浮かぶのは、いつも何も買わずに帰っていく高校生だが……。ある意味、ビターな後味は印象に残るけど、これも、この作品ならではの印象は薄いかな?
そして、物語としてメインとなる5編目。作中、ところどころで挿入される璃子が出会った青年・航。実は、兄・英介の同級生である貴子の援助を受けている存在。そして、それに衝撃を受けている中、貴子が何者かに襲われ、航が重要参考人となって……
これについては、犯人特定の理由が面白かった。鉱物というのは、確かにこのような形で使われることもあったなぁ、というのを思い出した。そして、その事件を通して思うのは、航の中途半端さであり、また、芸術とか、そういうものについての残酷さ、非常識さ、といったものか。これ自体は印象的ではある。
ただ、全体的にはそれほど謎メイン、鉱物メインという感じではなく、むしろ、物語の中心を貫く璃子の恋心の行きつく先を主に楽しむべき作品と言ったところになるのかもしれない。

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