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(書評)いくさの底

著者:古処誠二



「そうです、賀川少尉を殺したのはわたしです」 ビルマ北部のある村に駐屯する日本軍で将校が殺害された。のどかで、親日的な村で一体? その事件の裏にあるのは?
実に5年ぶりくらいに読んだ著者の作品。その前に読んだ『ニンジアンエ』でも、戦場の悲惨さを描いただけの作品ではない、というようなことを書いたのだけど、本作についてもそれは言えるだろう。
戦闘状態が続いている、というわけではないが、戦場と言える場所で起きた殺人事件。それも、部隊のリーダーを殺害した事件。物語は、その犯人の独白と、事件が起きてからのアレコレというパートを重ねることによって綴られていく。私が本書を手に取ったきっかけは『このミス2017』で、上位にランクインしたことなのだけど、ワホイダニットを巡ってのミステリという部分が多くを占めていると思う。
賀川少尉の死。それを発表することは、部隊に大きなダメージとなることは必至。故に、その死は秘匿せねばならないものであり、やがては戦死として処理せねばならない。そのような軍の価値観、そして、日本人としての価値観がこれでもか、と描かれる。そして、そのような中で今度は村長が殺害され……
途中、何作か未読の作品が挟まっているので断言はできないのだが、先に挙げた『ニンジアンエ』でもそうなのだけど、軍の常識、日本の常識。そういうものが著者のテーマになりつつあるんだろうか? というのを思わずにはいられない。
語り部たる依井にとって、いや、行動を共にする部隊の人間にとって、賀川というのは「理想的な」指揮官。決して無理を言うわけではなく、しかも、敵への想いも熾烈。しかし、それが現地の人間にとってどうなのか?
敵と味方。そういう二分論は誰でも陥りがちな罠。しかし、その狭間で生きる人間にとって、その争いはどういうものなのか? そういうものを考えると、現代にも通じるものがあるんじゃないか。そう思えてならなかった。

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