(書評)迷い家
- 22, 2018 13:51
- や行、ら行、わ行の著者
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著者:山吹静吽


昭和20年、東京大空襲から生き残った少年・冬野心造は、同級生から遅れて学校の集団疎開に合流する。民話などが息づくその村で、同じく疎開していた妹・真那子が失踪してしまう。妹ともに疎開先を脱走した少女・香苗の証言をもとに、その足取りを追う心造の前に現れたのは、巨大な屋敷。そこは、数多くの妖怪と、多くの霊宝が隠された場所で……
第24回日本ホラー小説大賞・優秀賞受賞作。
物語は2章構成となっており、第1章が上に書いた粗筋の物語となる。
屋敷は、数々の霊宝と、怪異を閉じ込めた空間で、結果により、一度入ると出ることが出来ない。そして、そこの怪異は人間である心造を食らおうと襲ってくる。それに対抗するため、言葉を解す老犬・しっぺい太郎と共に、霊宝を用いて渡り合い、そして、屋敷にいるであろう妹を探すことに。正直なところ、「怖い」という感覚はあまりない。むしろ、どの道具を使ってその危機を回避するのか? 先に進むのか? という『バイオハザード』とか、ああいうアドベンチャーゲームをやっている感覚に近い感覚。しかも、相棒であるしっぺい太郎も一筋縄ではいかない存在で、それを信じていいのか? という葛藤も生まれる。そして、そんなやりとりの末にたどり着いた結末……
そこから物語は第2章へ。終戦から12年、心造と同じく、東京大空襲を生き残った末に疎開し、現在はその地で教職に就いた香苗は、病院から失踪した義父を探す中で、奇妙な屋敷を見つける。そこで、12年前と同じ姿で、屋敷で過ごす心造と再会する……
なんていうか、この第2章まで読むと、心造という人物のことばかりが印象に残る。
戦時体制の中、模範的な軍国少年であった心造。それは、疎開先で出会った同じ年頃の少年たちから見ても、徹底していた。そんな彼が、終戦を知らずに、怪異が跋扈する空間で過ごしている中で……。その心の中にあったものは……。読書メーターなどで感想を読んでいたら、「成長できない少年の哀れさが……」というようなものを目にした。確かに、それに近い。でも、この心造の場合、それだけではないのだろうとも。東京大空襲で家族、故郷を失った。その中で心の支えとなっていたものは、本土決戦に備える、というもの。しかし、それは、単純なる「日本が勝つ」ということではなくて……。そして、その本土決戦すらなく、日本が敗れ、今は平和を謳歌している、というのを知ったときの暴走へ……
ある意味、横井庄一氏や、小野田寛郎氏と言った残留日本兵のそれを彷彿とさせる。そして、自分が失ったものを他者が知らないことへの怒り……。それも含めて「成長できなかった」ということも可能だと思う。でも、それ以上に、彼の破滅願望とか、そういうものを感じる。これって、ある意味、普遍的なものじゃないかとも。
怖さ、とか、そういうものよりも、すべてを失った少年の心の叫び。そんなものが凝縮された物語じゃないだろうか。
No.4633

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当記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
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昭和20年、東京大空襲から生き残った少年・冬野心造は、同級生から遅れて学校の集団疎開に合流する。民話などが息づくその村で、同じく疎開していた妹・真那子が失踪してしまう。妹ともに疎開先を脱走した少女・香苗の証言をもとに、その足取りを追う心造の前に現れたのは、巨大な屋敷。そこは、数多くの妖怪と、多くの霊宝が隠された場所で……
第24回日本ホラー小説大賞・優秀賞受賞作。
物語は2章構成となっており、第1章が上に書いた粗筋の物語となる。
屋敷は、数々の霊宝と、怪異を閉じ込めた空間で、結果により、一度入ると出ることが出来ない。そして、そこの怪異は人間である心造を食らおうと襲ってくる。それに対抗するため、言葉を解す老犬・しっぺい太郎と共に、霊宝を用いて渡り合い、そして、屋敷にいるであろう妹を探すことに。正直なところ、「怖い」という感覚はあまりない。むしろ、どの道具を使ってその危機を回避するのか? 先に進むのか? という『バイオハザード』とか、ああいうアドベンチャーゲームをやっている感覚に近い感覚。しかも、相棒であるしっぺい太郎も一筋縄ではいかない存在で、それを信じていいのか? という葛藤も生まれる。そして、そんなやりとりの末にたどり着いた結末……
そこから物語は第2章へ。終戦から12年、心造と同じく、東京大空襲を生き残った末に疎開し、現在はその地で教職に就いた香苗は、病院から失踪した義父を探す中で、奇妙な屋敷を見つける。そこで、12年前と同じ姿で、屋敷で過ごす心造と再会する……
なんていうか、この第2章まで読むと、心造という人物のことばかりが印象に残る。
戦時体制の中、模範的な軍国少年であった心造。それは、疎開先で出会った同じ年頃の少年たちから見ても、徹底していた。そんな彼が、終戦を知らずに、怪異が跋扈する空間で過ごしている中で……。その心の中にあったものは……。読書メーターなどで感想を読んでいたら、「成長できない少年の哀れさが……」というようなものを目にした。確かに、それに近い。でも、この心造の場合、それだけではないのだろうとも。東京大空襲で家族、故郷を失った。その中で心の支えとなっていたものは、本土決戦に備える、というもの。しかし、それは、単純なる「日本が勝つ」ということではなくて……。そして、その本土決戦すらなく、日本が敗れ、今は平和を謳歌している、というのを知ったときの暴走へ……
ある意味、横井庄一氏や、小野田寛郎氏と言った残留日本兵のそれを彷彿とさせる。そして、自分が失ったものを他者が知らないことへの怒り……。それも含めて「成長できなかった」ということも可能だと思う。でも、それ以上に、彼の破滅願望とか、そういうものを感じる。これって、ある意味、普遍的なものじゃないかとも。
怖さ、とか、そういうものよりも、すべてを失った少年の心の叫び。そんなものが凝縮された物語じゃないだろうか。
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