(書評)希望が死んだ夜に

著者:天祢涼



川崎市で中学生の少女が殺害された。逮捕されたのは、その少女の同級生である冬野ネガ。殺害そのものは認めているものの、動機については語ろうとしない。「あなたにはわからないよ」 若手刑事の真壁は、少年課の女性刑事・仲田とともに彼女の動機を探るが……
滅茶苦茶に重い……
物語は、文字通りに、冬野ネガが、なぜ同級生を殺害したのか、というホワイダニットを巡る話。真壁と仲田が関係者らに聞き込みをするパートと、冬野ネガがそのとき、どうしていたのか、という過去のパートを織り交ぜる形で綴られていく。
物語のテーマは、貧困問題。生活能力のない母と暮らすネガ。金銭的にも困窮し、周囲の生徒たちの「普通」すら送れず、日々の生活の糧すら危うい毎日。しかし、教師は、そんな彼女について「外国の子供と比べれば」などと見向きもせず、スマホを持っているなど「普通の生活が送れていた」とすら証言する。そして、ネガ自身は、自分におせっかいを焼いてくる被害者の春日野のぞみに反発を覚えていたのだが、実はのぞみもまた……
ネタバレになるけど、のぞみもは、周囲からは「お嬢様」とみられていたのだが、実際には親の経営する会社がつぶれ、生活としては同じような状況にあった。だからこそ、底辺で自ら周囲に壁を作るネガにもどかしさを感じ、お節介を焼いていた。そして、そんなのぞみと、違法とはいえ、同じ居酒屋でバイトをするようになり、打ち解けていく。しかし……
そんなに深刻ならば、生活保護を受ければ良いじゃないか、という意見もあるだろう。作中でも、そんな話は出ている。
しかし、生活保護に対する世間の冷たい視線。生活保護受給を阻害する水際作戦などの報道から、ネガの母はそれを申請しようとはしない。そして、そんな中でネガのただ一つの希望は、同じ貧困生活を送っていた近所のお姉さんがいう「高校さえ出れば……」の言葉。しかし……。一方の、のぞみもまた……
憲法で保障されているはずの「文化的で最低限度の生活」。しかし、のぞみにとって、生活保護を受ける、ということは、その「最低限度の生活」を喪うことを意味するもの。一方で、ネガにとっての「希望」は自らにそれを与えてくれた人物の現実から粉々に打ち砕かれてしまう。そうして……
終盤、この事件についてのひっくり返しなども用意はされている。けれども、それ以上に、タイトルの意味するものが物凄く深刻。貧困が問題だ、とは言われるが、実際、どのくらいに悲惨なものなのか、周囲の人間はあまり理解できていない。それが差別などにも繋がっていく。さらに、生活保護を受ければ良い、とは言うが、その制度が必ずしも救いになるとは限らない現実。
物語の最後でネガは真壁に対し、「希望なんてない」と言い放つ。それに真壁は反論することが出来ない。その意味するものが、あまりにも重い。

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