(書評)ネメシスの使者

著者:中山七里



熊谷市で高齢の女性が殺害された。その傍らには「ネメシス」という文字が。被害者は、十年前に通り魔事件で逮捕され、無期懲役で収監されている男の母であった。犯人は、死刑を免れた犯人に替わり、復讐をしているのか? 埼玉県警の刑事・渡瀬は捜査を開始するが、今度は千葉県松戸市でストーカー殺人で収監されている男の父が殺害されて……
正直なところ、なんだかなぁ……という思いが先行してしまった。
いや、物語の基本的なところは面白いのだ。冒頭に書いたように、立て続けに起こった重大犯罪の加害者家族が殺害される事件が発生。しかし、加害者は、被害者遺族らによる「死刑を」という声にもかかわらず、死刑を回避。被害者は、その金銭的な困窮などもあり、民事訴訟による損害賠償の義務も果たさずにおり、被害者遺族たちは何も救われない状況が続いている。そして、その判決を下したのは、「温情判事」などともいわれる裁判官・渋川。
犯人は、被害者遺族なのか? しかし、そうだとしても手がかりが少なすぎる。まして、当時の状況から言えば、事件を見聞きした者たちにも義憤に燃えるものが沢山いる。そのような中、次の事件、さらにと続いていって……
過去に比べれば多少はマシになったとはいえ、まあまだ未熟な被害者遺族への救援。一方で、加害者やその家族などに対するバッシングはネットなどを通じて拡散し、直接の被害も。自分こそ被害者、という加害者家族も。そのような部分、そして、後半で逮捕された犯人の真の目的……。この辺りは悪くないと思う。
思うのだけど、その被害者遺族の怒り、加害者遺族に対するバッシングといったあたりで物語を進めればいいのに、著者の知ったかぶりの、勘違いなデータの見方とかを入れてしまうために、何とも間抜けな空気が物語全体に漂ってしまっているのだ。それが何とも……
その著者の勘違いというのは、「再犯者率」という言葉。作中、「再犯者率が6割を超えていて、刑務所が機能していない」という話が何度も出てくる。何だかなぁ……という感じ。「再犯者率」というのは逮捕された人の中で、再犯だった人の割合。でも、再犯者率、というのは、それが高くなったから再犯者が増えた、ということは意味しない。例えば、去年、刑法犯として逮捕されたのが1500人で、再犯者率が750人ならば再犯者率は5割。それから1年、逮捕されたのが1000人で再犯者が600人だったら、再犯者率は6割と1割も高くなったことになる。でも、再犯者の数は150人も減っているわけである。再犯者率が高くなったのは、再犯者が減っているけど、それ以上に初犯者が減っているからに過ぎない。一応、日本を舞台にしているので、日本の犯罪事情を元にして言うと、2000年代に入ってから、刑法犯認知件数は減少の一途をたどり、その中で再犯者の数も減っている。しかし、それ以上に初犯の数が減っているので、再犯者率が高くなっているに過ぎないのである。簡単な算数の問題である。
勿論、司法の世界とかについて知らない人がそれを怒っている、というのであれば理解できないことはない。しかし、作中、敏腕刑事や、エリート検察官、はたまた、裁判官と言った司法のプロ中のプロたちが雁首をそろえてそんな勘違いを言っているのは何とも滑稽でしかない。
著者の作品って、社会問題などを題材にしたものが結構あるのだけど、読んでいて勉強不足というのを感じざるを得ない部分がかなりある。著者自身もそうなのだけど、編集者なども、もうちょっとその辺りについて調べて軌道修正できないものか、と思えてならない。

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