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(書評)海馬の尻尾

著者:荻原浩



2度の刑務所生活経験がある暴力団員・及川は、カシラの勧めもありアルコール依存症の治療のために精神科へと赴く。検査の結果、良心がない、というパーソナリティ障害を抱えていることが判明して……
久々の著者の作品。良くも悪くも、凄く素直な作品という印象。
冒頭に書いたように、主人公の及川は暴力団員。それも、アルコール依存症で、すぐにかっとなってしまい、気づくと相手に手を出してしまっている、というような存在。その性格が災いし、大きなトラブルもしばしば起こし、組の中での出世も遅れている。そんな彼が、パーソナリティ障害を抱えているということが判明し、その治療(?)をすることになって……
序盤は、とにかく、そんな及川と、病院スタッフやりとりが面白い。そもそも、何も問題がない、と思っている及川だし、上から目線でモノを言ってくる医者が気にくわない。だから、徹底的にそれに反抗し、時に暴力的に脅したりする。けれども、相手は全く意に介さずに言いくるめられてしまう。この辺りのやり取りは著者らしくて楽しい。
そんなパーソナリティ障害として、8週間の施設入院を提案される。当然、それを断る及川だったが、自らが起こしたトラブルで、しばらく身を隠す必要が出てしまい、そこを隠れ場所にすることにするのだが……
入所前から知っていた難病を抱えた少女との交流。自爆テロに巻き込まれ、恋人を喪った青年。妻子を喪った記憶を消した男。そのような存在たちとの交流。また、治療のせいか、少しずつ他者への共感能力を得ていく及川。しかし、その中で、組の中で感じる自分が取り残されているような印象。さらに、それまでは感じなかったカシラたちの態度への違和感。そして、順調に回復しているかのように思えた治療を受けている仲間たちの様子が……
終盤の流れは、何となく予想が出来るところなのでひっくり返しという感じはしないのだけど、そこまでの及川の変化というのが丁寧に描かれているからこそ読者が気づけた部分もあるんじゃないかな、と感じる。何しろ、及川の主観で物語が綴られているわけだし。
ラストシーン。人によっては、ここで? っていう感じもあるかも知れない。でも、共感性とか、そういうものを手に入れ、決断をしたからこそ、の場面であり、ここから先、どういう結末が待っているのかを想像する、というのがこの作品の余韻なのだろう。

No.4722

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