(書評)コンタミ 科学汚染

著者:伊与原新



就職のため、気鋭の生物学者である宇賀神にこき使われる日々を送る大学院生の圭。ある日、宇賀神と共に訪れたニセ科学批判を繰り広げる大学教授・蓮見から思いがけないことを聞かされる。それは、宇賀神のライバルであり、想い人でもある研究者・桜井美冬が行方不明であること。そして、その名前が、ニセ科学商品を売る会社所属として記録されていること。研究者としての「死」に等しい行為に美冬は手を染めてしまったのか? 圭と宇賀神は、彼女の消息を追うことになり……
これ、なかなか評価が難しい小説だぞ……読んでいる最中から、そんなことを思わずにはいられなかった。
キーパーソンとなる美冬が所属していた、というのはVEDYなるものを扱っている会社。そのVEDYとは、万能深海酵母群として説明されており、それを使うことでガンが治り、水にまけば水質の浄化が出来、放射能まで除去できる。そんな説明が受けて、学校やら何やらの教育に取り入れられたり、NPO法人や、時には自治体などが積極的にその使用を進めているような状況がある。しかも、批判者たちに対し、法的措置などをチラつかせることも……。多分、わかる人は、この元ネタが何なのかピンと来ると思う。そう、あの雑菌の塊だ(笑)
物語としては、一昔前の江戸川乱歩賞とかであったように、ある業界にいる主人公(本作の場合は、自然科学研究の世界)が、トラブルに遭遇(美冬を探す)し、その事件を追う中で、ある問題(ニセ科学商品の販売・浸透)について掘り下げていく……というような流れ。乱歩賞を追いかけている私にとって、比較的、オーソドックスな社会はミステリの流れだな、という風に感じられた。
ぶっちゃけ言うと、巻末の参考文献一覧に左巻健男氏、NATROM氏らの書が並んでいる。そして、私自身がそれらの書を読んだことがあるだけに、その構造や手口、問題点などについては既知の部分が結構ある。ニセ科学に関する部分で、私自身は「そうなのか!」という発見などはなかったと言わざるを得ない。ただ、ミステリ小説で、失踪した美冬を探す、という中で、ニセ科学商法がどう行われているのか、というのを上手く組み込んでおり、上手く物語として昇華出来ている、というのは感じる。私のような人間ではなく、あまり関心を持っていなかったミステリ好きの人が読めば、より、発見とかが多いと感じられる書なのではないかと思う。ただ、言い換えれば、物語としての楽しさよりも、そういう説明部分に尺がとられているな、という風に感じる部分が多かった、ともいえる。
そういう感じを思いつつ、小説の本筋である美冬の足跡探しについていうと……。当初、宇賀神が言うように、彼女は決して、そのようなニセ科学などに寛容な人間ではない。しかも、その原因というのが、彼女の親にあるようだ、というのが判明してくる。しかし、だとすれば、ますますそのような団体に手を貸すことが不可解に。その一方で、VEDYが発表された当初から、関わっていた痕跡も考えられる……。その相反する状況はいったい何なのか? 作中、何度となく出てくる、ニセ科学、代替療法にはまっていく女性のブログ記事と、美冬が研究していたもの、そして恩師のことが結びつき、真相が明らかになる結末はうまいと思う。
最後の方で宇賀神が「時に科学は残酷」という台詞を言うのだけど、その点でいうと、彼女はニセ科学で安らぎを得た、ということになるのだろう。しかし、それは「ニセ科学だったから」ではなくて、彼女を支えた存在の優しさがあったから、だろうと思うのだ。例えば、彼女が代替医療に走らず、真っ当な治療を受けて、命を落とすことになったとしても、近くにいたその人物がいたならば……と思えてならない。その意味で、ニセ科学を肯定した結末、ではないと思う。
最近の久坂部羊氏の作品を読んでいると、「医療には限界がある」というテーマがあると感じる。この真相については、そことも通ずるものがあるのではないかと思う。それを伝えない、というのは、科学の傲慢、みたいなところになるのだろう。しかし、決して、ニセ科学肯定ではない、といえよう。
ちょっと色々と脱線した気がするが、単純にミステリ小説としての構成はオーソドックスだが、ニセ科学商法などについてしっかりとまとめ、その上で、インフォームドコンセントなどについてこうすべき、という示唆を示した作品なのかな? と思う。

No.4758

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