FC2ブログ

(書評)ジャナ研の憂鬱な事件簿3

著者:酒井田寛太郎



海新高校ジャーナリズム研究会に所属する啓介と真冬が不可解な事件に巻き込まれる短編集第3作。全3編を収録。
と毎回のように説明しているのだけど、この巻は、いつも以上に「ジャナ研」が関係なかったような。まぁ、米澤穂信氏の古典部シリーズとかもそうだけど、同じ部活に入っている、というのが一つのポイントなのかな?
1編目『自画像・メロス』。優秀な消防士であり、引退後は画家としても活動していた真冬の祖父。そんな彼は、代表作と言える「自画像・メロス」を処分しろと言い残した。啓介と真冬は、その謎を解き明かそうとするのだが……
タイトルの通り、その絵は太宰治の『走れメロス』をモチーフとしていることは明らか。夕陽を背に走っている男。その顔は、真冬の祖父のもの。政治家である真冬は、勇敢な消防士である義父を象徴するもの、として美術館に飾っていたのだが……。この話、絵画に隠された謎を解く、というものなのだけど、やっぱり文章だけだとちょっと分かりづらいかな? 構図とか、そういうのを文章で説明されても……というのは……
ただ、この結末部分について、真冬の祖父の想い、というのは強く感じる。絵の中で描かれたものは決して恥ずべきものではないはず。しかし、消防士として英雄と祭り上げられたことのプレッシャー。そして、その真相が明らかになることがもたらす影響を考慮した結果……。その名声を利用しようとした真冬の父に対し、憤りを、となってもおかしくないところで、「処分してほしい」といったところにその人間性が現れていた、と言えるのだろう。
また、2編目の『鬼の貌』、3編目の『怖いもの』。どちらも謎解きとしては、非常にシンプルなトリック(?)はではある。ただ、むしろ、本作はそういう謎解きなどをしながら、啓介と真冬が同じ時間を過ごし、そして、関係性、そして、作中の時間の変化というのを強調した巻と言えるのだろう。
1編目、真冬の祖父の絵の謎を解く、という中で同じ宿で一晩を過ごし(別の部屋で、とはいえ)、また、2編目では啓介が実家の寺の仕事を手伝うことで、啓介自身の将来をどうするのか? というテーマがちらつく。そして、3編目、真冬がモデルをしていたころの友人であるユリのピンチを啓介が救うことで見せた真冬の反応……。真冬は受験生であり、啓介もまた1年後には進路を決める受験生になる。そして、かすかとはいえ、互いのことを意識し始めている。そんな高校時代の終わり、そして、自らの将来を具体的に考えねば、という決断の時間が迫る。そんな状況を事件を通しながらもうまく描いている。そして、だからこそ、3編目の最後に真冬が言ったセリフ……
時系列的にも真冬の卒業とか、そういうものも見え隠れした状況。だからこそ、二人の関係がどうなっていくのか気になる。

No.4759

にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。
スポンサーサイト

COMMENT 0