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(書評)僕らの世界が終わる頃

著者:彩坂美月



不登校になって1年。優等生である兄と比べて……という劣等感に苛まれる工藤渉は、そんな思いから小説を書き始める。自分の住む街を舞台に、知り合いをモデルとしたそれをWEB上に公開すると、予想外の反響が。しかし、そんな中、彼の元には公開を中止せよ、という警告が……。そして、渉の小説を模したかのような事件が発生し……
最初に告白すると、著者の作品ってこれまでちょっと苦手な意識があった。全部の作品を読んだわけではないのだけど、自分がこれまでに読んだ作品って、序盤、作品の世界観に入り込むまでに手間取ってしまう、という部分があったため。ところが、本作に関しては、そういう部分がなく、最初から一気に物語に没入でき、そのまま読了に至ることが出来た。
冒頭に書いたように、主人公は不登校、もっと言うと引きこもり状態の中学生。同じ両親の子であるのに、兄は優秀な成績で学校を卒業し、現在は結婚もし、幸せな家庭を作っている。そんな兄と比べ、自分は……。読者は、1年前に何かの事件があり、それがきっかけで、という部分まではわかっている状態で物語が開始される。序盤はそんな鬱屈とした状況から、小説を書いてみよう、というところへと進んでいく。
勿論、その小説も決して明るい話とは言えない。周囲の人間をモデルにし、しかも、そこで連続殺人が起こる、という話なのだから。でも、そこまでの鬱屈した思いが綴られるためそれもまた自然に感じるし、身近な人に見せたくなるような作品とは正反対だけど、でも、評価をしてくれる人が現れることで……という仄暗さを秘めた「楽しさ」というのも共感することが出来た。ところが……
物語の最初に起きた事件。それは、まるで、自分の小説を模倣しているよう。そして、その事件と前後して贈られてくる警告。自分は、小説を書いているだけ。ただの偶然だ。そう思いたい。しかし、自信を持てない。さらに、その事件を受けて、WEB上での注目は増していく。その状況に耐え切れず、その小説を消去した……はずだった。だが、何者かが、渉になりすましてその小説の続きを書き始め、それに倣ったような事件が発生していき……
小説の閲覧者は、なりすました者は、渉だと思っている。そして、それは同時に渉が事件を起こしているのではないか? とも。そして、そんな中で、今度は執筆者たる渉自身を特定しよう、という動きまで出始めて……。仄暗い情熱から始まった小説。自分自身の中にある暗い苛立ちを吐き出したもの。それ自体は否定できない。でも、自分はやっていない。やっていない、はずだ……。事件を防ごうと動くが、それを察知したかのように動く「敵」。友人らは信じてくれている、というが、それも本当なのか? という疑念。そもそも、自分自身に対しても自信が持てない、という状況で四苦八苦していくスリリングさは見事の一言。
ミステリとしても、ひたすら犯人に振り回されるところから、その中のちょっとした違和感を見つけ、そこから真相へ、という流れはうまいし、その真相へという流れが、しっかりと渉の成長へと結びついていくため、読後感も良い。
大満足。

No.4762

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