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(書評)オリンピックへ行こう!

著者:真保裕一



卓球、競歩、ブラインドサッカーを題材にした作品を収録した短編集。
一応、この作品、「行こう!」シリーズの第4作という扱いになっているのだけど、過去の3作も話のつながりなどはなかったし、今回に関しては3作の間のつながりも特にない。なので、シリーズ作品として意識する必要はないだろう。そして、非常にまっすぐなスポーツ小説と言える。
全体の半分以上の分量を誇る1編目『卓球』。幼いころから、卓球が得意であった大学生の雄貴。一度は、日本代表候補にも選ばれたことがあるが、その代表候補という壁は高かった。そのうち、故障もあり、代表候補にすらなれないまま、大学卒業が目前となる。そして、就職などのリミットも迫る……
チームの中では、トップクラスに強い雄貴。しかし、それでも代表候補に入ることは出来ない。同じくエース格の野瀬は、代表候補となるため、自費で代表候補の国際試合に参加している。代表候補になるためには、とにかく実績を作るしかない。そして、そのためにはなりふり構っていられない。そんな中での大会が迫り……
実力者が揃う大会。確かに全国から多くの選手がそろっているが、それでも何度も研鑽を重ねてきた者たちであり、誰が何を得意にしているのか? などの情報は知り尽くしている。だからこその、相手をどう破るのかの駆け引きの連続。動揺を悟られぬよう、狙いを悟られぬよう、という心理戦は何よりも読みごたえがある。でも、そんな戦いをしても、次なる強敵はどんどん現れていって……。どちらかというと地味な種目と言える卓球。けれども、その世界で、頂点を目指し、研鑽する者たちの戦いは印象的だった。
続いては、これまた地味な題材である『競歩』。32歳。オリンピック代表となるためには最後のチャンスと試合に臨む拓馬。その試合中に思い出すのは、これまでの競技人生……
高校時代、自らの限界を感じ、競歩へと種目を変えた拓馬。指導者がいない中、コーチに、近隣の大学の指導者を紹介してもらい、インターハイでも成績を出した。しかし、だからこそ感じる限界。その大学への推薦も決まっている。しかし、その大学は決してトップ校ではない。もっと力をつけたい、と別の大学への進学を目指す。しかし、それはコーチらには裏切り行為に等しく……
丁度、レスリングの世界で、指導者が選手の取り扱いを巡ってパワハラだ、とか、そういう話題が世間を騒がせているわけだけど、本作の物語もそれを彷彿とさせる。上を目指すため、自分にとってもっともよい環境を求める拓馬。しかし、コーチ、学校……そういうものは、別の算段を常につける。その中でも、と我を貫いた結果の現在の状況。周囲に翻弄され、時に自分自身が裏切りをして、その上でのレース……。ラストシーンの言葉は、愛憎はありつつも、そんな拓馬を見守っていた……ということなのだろうか?
毛色が違うのは最も短い『ブラインドサッカー』。過去2編と違い、本作の主人公は、引退した元Jリーガー。サッカーをあきらめきれず、周囲に八つ当たりしていた幹雄は、知人の紹介でブラインドサッカーの練習を見ることとなって……
嵌められた。そう思いつつも練習を見ている中、注目したのは一人の少年。基本的なものは持っていて、しかし、どうにもギクシャクとした動きしかできないその少年を前に、自らの挫折を思い出して……。前の2編は、現役で、色々と経験しつつも何とか……という話だったのに対し、本作の場合は既に辞めた存在。そして、そんな後悔、挫折があるからこそ、少年に教えることが出来ること……。素直な再生物語としても読みごたえがある話。
スポーツ、日本代表を目指す……となると、どちらかというとずば抜けた才能を秘めた主人公が……的なものを想像しがち。確かに、彼らも私のようなスポーツ音痴とは段違いなのだろう。でも、決して一流選手というわけではなく、同程度のレベルの選手は沢山いる存在。そんな彼らがもがき、それでも……というエリートではないからこその熱さ。そういうものを感じられる作品集だと思う。

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