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(書評)私の頭が正常であったなら

著者:山白朝子



全8編を収録した短編集。
これまでの著者(名義)の作品は、幻想的な雰囲気を全面に出した『死者のための音楽』。時代モノと言える和泉蝋庵シリーズだったのだけど、本作は現代的な設定でのホラーとなっている。そのせいか、すんなりと物語に入り込むことが出来た。
1編目『世界で一番、みじかい小説』。妻と暮らすマンションにある日、男が現れた。何をするわけではない。ただ、そこにいるだけ。その男はいったい何なのか? ホラーではあるのだけど、幽霊が何かをする、というわけではないこともあり、怖さはそれほどない。そして、その男の正体が判明したときに明かされるのは……。ホラー現象の原因が、主人公夫婦の話へと転化してのまとめはうまい。
後味の悪さだと2編目の『首なし鶏、夜をゆく』。学校に編入し、クラスでも浮いている主人公は、同じように孤立している少女・風子が、首がないが生きている鶏の京太郎を可愛がっているのを発見する。京太郎を通して、風子と仲良くなっていく主人公だが……。首のない鶏が生きている、という点で不気味な感じはするが、最大の問題はむしろ、風子の家庭にあった。何もできなかった主人公。そして、京太郎を託した風子。想いは純粋なだけに……
ホラー的な様相が強いのは『子どもを沈める』。学生時代につるんでいた悪友が、次々と我が子を自ら殺めた。そんな一人から、主人公へと手紙が届く。それは、我が子が、かつて自分たちが自殺に追い込んだクラスメイトにそっくりに見えて……という。そして、主人公もまた、我が子を妊娠していた……。話としてはシンプルな因果譚と言える。でも、我が子が、クラスメイトに見えても、でも、自分の過去にまっすぐ向かい合い、紆余曲折もありつつもその償いを、という結末は何か希望のようなものも感じさせ、後味は悪くない。『トランシーバー』にしても、そうで、東日本大震災で行方不明になったきりの幼い息子が遊んでいたオモチャのトランシーバー。そこから、しばしば、息子からと思しき声が聞こえてくる。それに救いを抱きつつ、思い出に浸り身体を壊していく主人公。そんな彼が……。過去を忘れる。乗り越える。言葉は色々とあるけど、それがいかに難しいことか。でも……。それを乗り越えるのもまた、「言葉」なのだ、というのを感じずにはいられない。
冒頭に、この名義での作品集としては珍しく、現代もの、という風に書いた。そして、読み終わってからちょっと考えてみると、この作品のアイデアの出し方って、別名義の作品っぽくも感じる。勿論、それが悪いわけではなく、しっかりとしたクオリティの作品集なのだけど、名義の使い分けとかどうなっているのかな? なんてこともちょっと思ったり。
……あと、帯の、中田永一氏の推薦文は卑怯(笑)

No.4768

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