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(書評)この世界にiをこめて

著者:佐野徹夜



周囲に溶け込んでいるように見せながらも、生きづらさを抱えながら過ごす浩平。そんな彼は、1年前に死んだ吉野紫苑宛に届くはずのないメールを送り続けている。だが、そんな届くはずのないメールに返事が来て……
結構、不思議な感じの物語だな、というのをまず思った。
物語は、現在の浩平と、過去の浩平というのを交互に繰り返すような形で展開する。
本を読むのが好きで、そして、文章を書くのが好きだった浩平。独りでそんな状況を満喫するために、と、部員のいないはずの文芸部に入り、同じようなことを考えていた彼女・吉野紫苑と出会う。そして、彼女が、まるで呼吸をするように綴る物語に衝撃を受ける。そして、そんな彼女の小説に惹かれながら、だんだんと仲良くなっていく中、彼女の小説家デビューが決まる。しかし……
謎のメールの差出人が誰なのか? それ自体は、多分、予想するのは簡単だし、比較的、早い段階で明らかにされる。だが、物語はそこから先がポイントなのだろう。
生きづらさを抱えながら、と書いたのだけど、この主人公の浩平。かなりひねくれた、というか、諦観を抱えた状態で過ごしている。多くの人に読ませたい、と言っていた吉野の小説。確かに売れてはいるが、それはどちらかというと売り方の問題。そして、おそらくすぐに消えてしまうだろう。それだけじゃないか、そんな思いを常に抱えている。それにも理由はあるのだけど、それ故に、それまでのめりこむように読んでいた本を捨て、小説を書くこともやめていた。だが、そのメールの相手が、吉野の小説に救われ、そして、その相手とのやり取りをし、その吉野の残したものを見て……
すっきりと、明るい結末へ結びついた、という感じの結末ではない。でも、吉野の残したものから、それからの呪縛から解き放たれ、彼女だったら……そういうのは、作家の性とか、そういうものなのかな? と思う。っていうか、私は、小説なんて書いていないけど、こういう風に感想を書いている中、読んでいる最中、読み終わって、すぐに「この感想を書きたい!」と思うことがある。感覚としてそれに近いのかもしれない(なんか、作者に怒られそうだ)
恋愛要素とか、そういう話として見ることも可能だと思う。でも、私の場合、「書かなければ」という文章書きの、その想いとか、そういうものを題材にした作品としての一面を強く感じた。

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