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(書評)ペンギンは空を見上げる

著者:八重野統摩



NASAの技術者になることを夢見る少年・佐倉ハル。意地っ張りな性格もあり、クラスでも孤立する彼は、大人の力を借りずに、風船宇宙撮影を目指す日々。そんな壮大な夢を目指す彼のクラスに、「仲良くしないでください」と放言するアメリカからの転校生・鳴沢イリスがやってきて……
なんというか……ミステリというか、凄く、優しく、でも芯のしっかりとした作品を読んだな、という感想を抱いた。
物語は冒頭に書いた通り。学校では、周囲から浮いていて、家でも両親との関係が上手くいっていないハル。しかし、彼はそんなものは関係ない、という態度で、ただ、自分の目標に向かって動いている。そんなときに現れたのが、鳴沢イリス。周囲に溶け込もうとしないイリス。そんな彼女を何だかんだと言いながらもフォローしながら、だんだんと、イリスとの関係は進展していく。しかし、その風船宇宙撮影を一緒に実行しようと思った、その時に……
正直なところ、読んでいる最中、少し「変だな」と思うところはありつつも、謎らしき謎は出てこない。いや、なんで、ハルは周囲から孤立しているの? とか、そういう部分はある。でも、話そのものは、ハルとイリス、そして、ハルにも変わらずに接してくるお人好しの少年・三好が学校内外でのアレコレを中心に描かれるので、それほど、「謎」というようなものはない。そして、その孤立した理由なども一応、説明されて、謎なんてないじゃないか? と思いつつ、突然のハルとイリスの喧嘩。そして、イリスの転校という事態が訪れて……
作品の仕掛けが暴かれたときに、それまでの違和感が、ああ、なるほど! と思った、というのがまず1つ。でも、それ以上に、ハルの「完璧ではない」という部分に直面させられるシーンが心に残った。
アメリカから来て、日本語が上手くないから、と、周囲との交流を拒むイリス。その裏にあるのは、転勤族の親の都合で、周囲との別れを繰り返してきた哀しみ。交流しようとすれば、出来るのに……。そんなイリスに対するハルの苛立ち。しかし、それは同時に、自分の抱えた問題に対する劣等感であり、それは同時にハル自身にも突きつけられるものだった。これ、ハルだけじゃなくて、私のようなオッサンと言える年齢になってもグサっと突き刺さるもの。黙々と仕事をする職人である祖父とか、ハルを見守り、方向性を示す存在としての大人も存在感を示していて、そんな彼らに囲まれたハルって幸せ者だな、というのを強く感じる。
ハル、そして、イリスの将来はきっと有望なのだろう。そう感じる読後感だった。

No.4807

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