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(書評)紅のアンデッド 法医昆虫学捜査官

著者:川瀬七緒



都内の古民家で発見されたのは、夥しい量の血痕と、その家に住む老夫婦と客人のものと見られる左手の小指。しかし、遺体などは発見されず、何の進展もないままに1か月が経過しようとしていた。そのような中、岩楯は、相棒である鰐川と共に聞き込みを続けていた。一方、法医昆虫学の研究者である赤堀は、科捜研が再編成された組織で同僚となった広澤と共にその事件の調査に乗り出すが……
シリーズ第6作。
話の地味さ、というか、話の状況のわからなさ、というのが本作の魅力なのかな?
冒頭に書いたように、古民家で発見されたのは夥しい血痕と3人の小指。しかし、言い換えればそれだけ。明らかに事件ではあるのだが、死体が発見されたわけではないし、被害者が誰なのかもイマイチはっきりとはしていない。そのような中で、その家に住んでいた老夫婦が何者だったのか? そんな聞き込みを中心にして物語は進展していく。
物語のヒントとなるのは、老夫婦が抱えていたご近所トラブル。近所のある意味でボス的な存在である、草木染の教室に通っていた夫婦の妻。しかし、そのボスからははっきりと疎まれている様子がうかがえる。そして、隣に住む老婆が見てしまった夫の病気に関する手紙。そして、ボスが育てていたダリアを守るために使われた農薬により、生態系が崩れた結果、と思われる毒虫の異常な繁殖。同じような事件は23年前にも……。それらのヒントから、老夫婦はいったい何者だったのか? そして、毒虫の繁殖の理由は? というのを焦点に話が進んでいく。
この作品の感想を書くにあたって、他の人の感想を読んだところ、「なんか地味」みたいな感想が結構あったのだけど、私は、この地味な中にも、ちゃんと物語をリードしていく感じが大好き。岩楯らの聞き込みより、少しずつ明らかになっていく老夫婦の正体。そこで明らかになるのは、しっかりとした知識に基づいた人助けをしようとする姿。が、同時に「自分が正しい」と相手のことを慮らない傲慢さの同居。そんな人間性がトラブルにつながったのでは? と思わせるが、しかし、そもそもの彼らがどこに行ったのかはわからない。それが縦糸とすれば、横糸は、赤堀が考察する「虫の声」。
同じ部屋にあった指。しかし、ウジの食べた後は明らかに差異が。さらに、同じような古民家で、同じような事件が起きたとき、同じように毒虫が異常繁殖をしていた。それは何故? ウジが侵蝕は偶然。毒虫の繁殖は、農薬散布の結果。そういえば、説明はつく。けれども、何かがおかしい。そんなとき……
そんなところで、物語の8割くらいまで進むのだけど、聞き込み、老夫婦の人間性、そして、その合間合間に挟まれる食品に使われる添加物に関する蘊蓄などで引き付けるのは流石。そして、その秘密が明らかになったときの衝撃度というと……。溜めに溜めたからこその一撃……という気がするが、なんて嫌な一撃だ!
大きなひっくり返し、というわけではないのだけど、地味な捜査から一歩、一歩、真相に使づいていく物語を堪能することが出来た。

No.4811

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