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(書評)名探偵誕生

著者:似鳥鶏



となり町の幽霊団地には、謎の男「シンカイ」が現れるらしい。小学校4年生だった僕は、クラスメイトたちとその団地へと冒険に赴く。そこには確かに……。そんな謎を明らかにしてくれたのは、隣の家に住む「お姉ちゃん」で……
という形で紡がれる物語。
話自体は、小学校時代、中学生時代、高校時代。そして、大学生になって……と、各時代の話。それぞれ、謎があって、それをお姉ちゃんが真相を解明して……という全5話(大学生編が2話構成)で構成されるため、連作短編集のような形式をとっている。ただ、読み終わってみると、しっかりと長編作品になっているということがわかる。
とりあえず、短編形式の話で好きなのは1編目かな。小学校時代の、狭い世界観。ここまでが自分の住む世界で、ここからがそれとは違う世界。本当にちょっとした、ぶっちゃけ、「冒険」と言ってもただ隣町まで遊びに行くだけ。それなのに、なぜか心浮かれる状態。そして、そこでの謎……。著者の作品らしく、団地というものが抱えた問題などを内包したうえでの謎解きが面白かった。
そして、そんなやりとりを加えつつ、自分が「お姉ちゃんが好きなのだ」と自覚しながら過ごしての日々。大学生になったお姉ちゃんが、ゼミの仲間を好きになった、ということを知りつつ、そのゼミの学生たちと行った先で起きた事件……
それまで、お姉ちゃんが謎を解いてきた、とはいっても悪戯とか、ちょっとした不思議な出来事、といったもの。犯罪になっても、それほどの重罪というようなことはなかった。そんな中での「殺人」という重大事件。そこで、お姉ちゃんが犯人として指名した人は……。だが……
ミステリ作品の名探偵というのは、冷静に、情に流されずに情報を分析し、謎を分析し……ということが要求される。そして、それが指し示すのは……。それまでの謎解きの中で、そんなクセがついてしまっていたお姉ちゃんの苦悩。そして、そんなお姉ちゃんの苦悩を推し量り、そのお姉ちゃんの推理の穴から見出したものは……。
ほろ苦い結末。でも、お姉ちゃんを間近で見てきたからこそ、見つけ出すことのできた真相。それは、冷静に、というよりも、「何とかお姉ちゃんを」という感情から、という部分があるのだろう。4話で見せたお姉ちゃんの謎解き、そして、5話での真相。それを考えたときに、常に冷静に、という言葉のむなしさと、「どうしても」という想いの強さ。そこまで出てきた名探偵の条件のある種の否定と、新しい名探偵像の創設。主人公の成長物語と同時に、そんなテーマがあるように思えた。

No.4828

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