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(書評)火焔の凶器 天久鷹央の事件カルテ

著者:知念実希人



平安時代、呪いの力により名声を得たという陰陽師の墓を調査した大学の研究者たち。だが、彼らは呪いにより、一人が火事で死亡し、残りの二人は呪いにより体調を崩してしまったという。事故? 事件? 呪い? 憶測が飛び交う中、天久鷹央は調査を開始するが……
シリーズ全体を通せば9作目。長編シリーズだけで換算しても4作目。
このシリーズ、最終的には医学的な謎という部分で事件を解明、というのが多いのだけど、本作の場合、そういう謎を絡めつつも、いつものパターンを外してきたな、という感じ。
物語は、墓の調査に行ってから体調を崩し、部屋に閉じこもってしまった、という教授の関係者から依頼が入り、墓へと向かう、というところから始まる。そして、調査の結果、その教授の体調不良の理由が明らかになる。だが……。そこまでは、いつも通り、という感じなのだが、その葬儀の際、その棺が炎を上げて……。さらに、次々と関係者が不可解な事件に巻き込まれて行って……
まさしく呪いとしか思えない形で起きていく事件。呪いにより、炎を上げて、という陰陽師の呪いは本当なのか?
真相まで明らかになると、トリックなどについてはシンプルではある。でも、そのシンプルな事件を、それぞれの関係者の人間関係の交錯。そして、職場などでは決して見ることのできない、人間の真の姿、という部分でまとめ上げたのは流石。
と、同時にシリーズを重ねての鷹央の成長というのが垣間見える部分が多くあるのも長所と言えるだろう。冒頭の、墓の調査からの一件。語り部たる小鳥遊自身が言っていることだけど、もし、シリーズが始まった当初であれば、あれだけ用意周到に準備をして、ではなくて、ただ強引に事を進めていたことだろう。また、その結果、しかし、救えなかったということで傷ついて……ともなっていただろう。それが、これまでの事件で成長している、というのをしっかりと感じられる。ただ、その一方で、その成長をするだけの時間が経過した、ということは、小鳥遊が元の病院へ戻る、というリミットも迫っているということ。鷹央と小鳥遊の別れも迫っている、ということになるわけで……。なんか、シリーズの完結が見えてきた、という部分も感じずにはいられない。
……そういえば、正当防衛とはいえ、数多くの犯人を叩きのめした小鳥遊。多くの事件に首を突っ込んで、捜査を混乱させた鷹央。……結果、警察から危険人物としてマークされる立場となった二人、ってのも、シリーズを通しての積み重ねと言えるような……(笑)

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