著者:呉勝浩


陣場山で発見された白骨遺体。それは、5年前の薬害事件で注目を集めて失踪した医師だった。遺体の傍らにはマトリョーシカ。その中には、謎の液体。その事実に、神奈川県警は震えあがる。なぜならば、5年前、失踪を訴えた愛人を名乗る女性を追い払った過去があったからだ。そのような中、今度は八王子で同じマトリョーシカが傍らに置かれた惨殺遺体が発見され……
個人的に、著者のデビュー作、2作目辺りは、「なぜ?」という魅力的な謎で引っ張る一方で、ストーリー性がちょっと物足りない、と感じる部分があった。でも、本作は謎も魅力だし、ストーリー展開も見事で、素晴らしい出来だな、と何よりも思った。
物語は、神奈川県警、警視庁、双方に所属する刑事たちの視点によって綴られる。冒頭に書いた通り、神奈川県警としては、過去に愛人の訴えを無視した、という弱みを持っている。そのため、二つの事件が同一の犯人によるもの、ということが明らかであっても合同捜査本部を作ることなく、それどころか一種の化かし合い的な対立軸を孕んだ捜査が続けられる。
そんな中で物語を引っ張る謎は、「事件の存在を知らせた匿名の電話は何なのか?」、「薬害事件との関連は?」、「失踪を訴えた女性は何者だったのか?」。物語が進むにつれて、あれ? という謎が生まれて、しかも、それぞれのパーツが二つの警察組織の間で共有されないため、だんだんと、物語の構図は見えつつも、しかし、肝心の部分にはたどり着けない、というもどかしさが非常に、先がどうなるのか? という興味を持たせる原動力となっている。そして、そんなもどかしさを取っ払うように動き出す、両警察の中で意志を持った刑事たち……
この中でも、大企業の御曹司で、数年後には警察を退職せよ、とされている六條の存在が光る。敏腕だけど、クセのある辰巳とのやり取りの中で、だんだんと腹を据え、覚悟を持っていく成長。そして、そんな六條の、開き直りに影響される他の面々。これでもか、というもどかしさを抱えながらの読書だっただけに、終盤の刑事たちの行動は気持ちが良い。
それでも、物語の真相はドンヨリとしたものではある。でも、ただ、ドンヨリ、というのではなくて、六條をはじめとした面々のスカッとした部分との対比、という形になっていることで、良いメリハリになっているのではないか、と思えてならない。
No.4877

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
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陣場山で発見された白骨遺体。それは、5年前の薬害事件で注目を集めて失踪した医師だった。遺体の傍らにはマトリョーシカ。その中には、謎の液体。その事実に、神奈川県警は震えあがる。なぜならば、5年前、失踪を訴えた愛人を名乗る女性を追い払った過去があったからだ。そのような中、今度は八王子で同じマトリョーシカが傍らに置かれた惨殺遺体が発見され……
個人的に、著者のデビュー作、2作目辺りは、「なぜ?」という魅力的な謎で引っ張る一方で、ストーリー性がちょっと物足りない、と感じる部分があった。でも、本作は謎も魅力だし、ストーリー展開も見事で、素晴らしい出来だな、と何よりも思った。
物語は、神奈川県警、警視庁、双方に所属する刑事たちの視点によって綴られる。冒頭に書いた通り、神奈川県警としては、過去に愛人の訴えを無視した、という弱みを持っている。そのため、二つの事件が同一の犯人によるもの、ということが明らかであっても合同捜査本部を作ることなく、それどころか一種の化かし合い的な対立軸を孕んだ捜査が続けられる。
そんな中で物語を引っ張る謎は、「事件の存在を知らせた匿名の電話は何なのか?」、「薬害事件との関連は?」、「失踪を訴えた女性は何者だったのか?」。物語が進むにつれて、あれ? という謎が生まれて、しかも、それぞれのパーツが二つの警察組織の間で共有されないため、だんだんと、物語の構図は見えつつも、しかし、肝心の部分にはたどり着けない、というもどかしさが非常に、先がどうなるのか? という興味を持たせる原動力となっている。そして、そんなもどかしさを取っ払うように動き出す、両警察の中で意志を持った刑事たち……
この中でも、大企業の御曹司で、数年後には警察を退職せよ、とされている六條の存在が光る。敏腕だけど、クセのある辰巳とのやり取りの中で、だんだんと腹を据え、覚悟を持っていく成長。そして、そんな六條の、開き直りに影響される他の面々。これでもか、というもどかしさを抱えながらの読書だっただけに、終盤の刑事たちの行動は気持ちが良い。
それでも、物語の真相はドンヨリとしたものではある。でも、ただ、ドンヨリ、というのではなくて、六條をはじめとした面々のスカッとした部分との対比、という形になっていることで、良いメリハリになっているのではないか、と思えてならない。
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