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(書評)クリーピー クリミナルズ

著者:前川裕



犯罪心理学者・高倉孝一が出会う奇妙な事件を描いた短編集。全5編を収録。
一応、高倉シリーズ、クリーピーシリーズ、とでもいうのかな? の、3作目。とはいえ、前作である『クリーピー スクリーム』は、高倉があまり関わっていないのでシリーズと言ってよいのかどうかわからないのではあるが。
で、本作なのだが、高倉が「犯罪心理学者」である、というのが強くクローズアップされたエピソードが多かったように思う。
例えば1編目。豪華客船で出会った夫婦との話を描く『洋上の告白』。語り部は、その夫側なのだけど、ある秘密を抱えていて、それを隠しながらも、しかし、何か背徳感から言いたい、という気持ちも持っている。そして、語りだす、ある殺人事件について……。
それぞれのエピソードで、「人間というのは、こういう心理を抱えている時、こういう行動を取ることがある」みたいな解説を加えながら、それぞれの人物の抱えた謎を言い当てる様、というのは、これまでのシリーズの中で一番、高倉が「心理学者」である、というのを感じさせてくれる。もっとも、謎解き自体について、ヒントは語り部たる高倉と対峙する側(=読者)の知らないところで、実は高倉に伝わっていた、というエピソードが多くてフェアな本格ミステリ、という感じではないのだけど。
そんな中で、一番、印象に残ったのは、5編目『あなたと一緒に踊りたいの!』。大学の専任講師で、作家としてのデビュー。しかし、学科の主任とは意見が合わず、出世出来ずにいる由香。そんな彼女を支えていた親友の死。その真相は……
ある程度、真相と言える部分はパターン化されているために予想が出来るのだけど、バイリンガルである、という自らの特性によって気づかなかったこと。それが生み出した誤解。そして、そのことに対する罪悪感。それをある意味で救う高倉の一言。結構、淡々としていたり、それで終わり? というエピソードも多いのだけど、このエピソードは最後までしっかりとした感情を伝える形でまとめられており、作品集の締めに相応しい話だったと思う。

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