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(書評)二十世紀電氣目録

著者:結城弘



明治40年、夏。京都。日本に電燈がともり始めた町で、神仏を妄信する百川稲子と、神仏を否定し、伝奇こそが人々を救うという坂本喜八は出会う。反目し合う二人だったが、父の決めた結婚を嫌がる稲子の心情を察した喜八は、共に京の町を逃げ出すことに。結婚を阻止する鍵は、かつて、喜八自身が書いた預言書『電氣目録』……
第8回京都アニメーション大賞奨励賞受賞作。京都アニメーション社のプロジェクトとしてアニメ化企画が進行中らしい作品。
この作品、何よりも好きなのは、作中に漂う雰囲気。冒頭に書いた粗筋のように、電気というものが広まりつつある時代。また、女性の解放などを訴えるキリスト教徒たちや、反対に家制度、家父長制といったものも人々の暮らしには根付いている。まさしく、現代への扉をくぐり始めた時代。その雰囲気がまず良い。
そして、稲子、喜八ともに、キャラクターの土台がしっかりとしているのも長所。造り酒屋の娘として生まれ、杜氏であった母、何でも器用にこなすことが出来る姉と比べ、不器用でいつも父に叱られてばかりの自分。鋭敏な味覚などを持ちながらも、それに気づかず、ただ自分には何もないと嘆き、神仏へ帰依する。対して、喜八は、神仏を敬いながらも、兄の死という理不尽に何の救いも与えてくれなかったそれへの想いを喪った。さらには、喜八の兄の戦友であり、不器用で猪突猛進型の陸や、その婚約者である稲子の姉・規子……皆、しっかりとした背景があるんだよな。
そんな中で、なぜ、『電氣目録』がカギとなるのか? そこには、喜八が書いた覚えのない「酒」についての話があるらしい。しかし、それはいったい何なのか? そして、どこにあるのか? そんな謎もまた魅力的。まぁ、その真相は結構、しょぼい気はするのだけど、そこに至るまで、先に書いたキャラクターたちの掘り下げがしっかりとしているのでそれほど不満に感じることはなかったが。
一応、欠点を挙げるなら、視点の切り替えなどが多く、しかも、その取扱いがややぎこちなく、ちょっとスピード感が損なわれること。特に、登場人物の事情がかなり入り組んでいるためやや混乱する部分もあった。
とは言え、この辺りは映像化で上手く処理すれば欠点ではなくなるはず。そういう意味で、映像化にも期待。

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