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(書評)ただし、無音に限り

著者:織守きょうや



一代で富を築いた老資産家の死。何の変哲もない病死として処理された死であったが、その娘は、遺言により、その遺産の大部分を相続することとなる、資産家と同居する甥・楓に殺されたのでは? と疑念を募らせる。既に遺体は荼毘に付された中、幽霊を見ることが出来る探偵・天野春近は、その調査を請け負うのだが……
という『執行人の手』など、天野の活躍を描いた2編を収録。
著者の作品というと、『霊感検定』、『記憶屋』とホラー要素というか、幽霊とかの存在を前提にした話の印象があるのだけど、本作もそんな設定は受け継いでいる。
冒頭に書いた通り、天野は、幽霊を見ることが出来る。しかし、見ることが出来るだけ。会話などの意思疎通は出来ない。ただ、その幽霊の要る場所で眠ることで、その幽霊の記憶の断片を見ることが出来るのは確か、だが……。
2編があるのだけど、個人的には1編目の印象が強いかな。物語の導入は、冒頭に書いた通り。
どう考えても病死、自然死という資産家の死。依頼人である娘が言うように甥(死んだ資産家から見れば孫)の楓は、ちょっと風変わりであり、大人でもドキッとしてしまうほどに醒めた視線の持ち主で、頭も良い。だが、彼と話をする中で、ませた部分はあるが、しかし、祖父を大事に思っており、殺すような動機は無い。そもそも、遺産相続にしても遺言が明かされたのは、祖父の死後で遺産という動機も考えづらい。娘の考えすぎだろう、と思ったのだが、幽霊は立っており、その意識の中で、薬物や、楓の顔やらが現れて……
天野から見て、被疑者である楓。接した様子から見て、楓が犯人とは思えない。けれども、幽霊が見せた記憶には、犯罪行為と思しき状況が。そんな、ある種の対立構造が出来ている中で明かされる真相。老資産家の、ある意味で、誰にも迷惑をかけないための仕組んだことと、しかし、聡明であるがゆえに、それを理解してしまった楓という構図が何か切ない。
2編目の『失踪人の貌』。こちらは、2年前に失踪した夫を探してほしい、という依頼を受けての調査。経営難に陥り、借金も抱えていた夫。資産家の娘で、そんな夫も、ある意味、無邪気に下に見ていた妻。夫の会社に立つ幽霊と、その記憶が見せたもの。動機があるとすれば依頼人である妻だが、しかし……。その辺りの不可解さは魅力的なのだけど、このエピソードの仕掛けはちょっと強引かな? とも感じた。
作中、楓にも言われるのだけど、主人公・天野の、情報を色々と引き出すことは出来るが、しかし、それを整理するのが上手くない、というのが、この作品の長所でもあり、短所でもある気がする。1編目に関しては、それが楓の聡明さであり、故に彼の何ともいえない立ち位置を示す余韻になったのは確か。でも、2編目に関しては、読者である自分ですら、この可能性は考えるのに……というような感想が出てしまい、ちょっと……という感じになってしまった。そういうところを考えると、エピソードとしての出来は1編目が良かったな、という印象。
ただ、天野と楓のコンビ(?)はなかなか面白く、このコンビでの続編も期待したいのは一番、思ったことだ。

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