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(書評)わたしの本の空白は

著者:近藤史恵



気付いたら病院のベッドに横たわっていた三笠南。目は覚めたものの、自分の名前も年齢も、家族のことすら思い出すことが出来ない。夫を名乗る人物に対してもピンと来るものはない。しかも、何か隠している様子が見える。そして、そんな中、夢の中に現れる一人の男性・晴哉……
何とも言えない不安感ばかりが募ってくる。そんな作品。
物語の入りは、冒頭に書いた通り。自分のことを何一つ覚えていない状態で意識を取り戻した南(南、という名前にすら覚えがない) 夫を名乗る慎也は優しく接してくれる。しかし、何かを隠していることは明白。例えば、自室の本棚にある不自然な空白。夢で見たものか、と尋ねてみても、「知らない」ではなく、「そんなものはない」という一言。それだけで、何か隠していることはわかる。さらに、南に対して厳しく当たる義姉ら……
この不安感にまず心を奪われた。決して悪人とは思えない。けれども、独善性を感じ、さらに、束縛感を与えてくる慎也に対して、何となく感じさせる夫の慎也。むしろ、自分を他人と言いながら、本音でズバズバと意見を言ってくる義姉の方が信頼できると感じる。そして、そんな中で浮かび上がってくる「晴哉」という男の記憶……
そこから場面が転換し、今度は、晴哉に惹かれる女性視点での物語。家族に対しても決して心を許さない彼女が、何となく、木になる存在。しかし、彼女のアプローチに対しても、「自分には好きな女性がいる」と言い、関係を結ぼうとはしない。そして、その相手が、南と判明するのだが……
だんだんと判明する南、慎也、晴哉の関係。そこから、さらに……と繋がっていくのだけど、気づくと、当初に感じた違和感、気持ち悪さから、別の気持ち悪さへと転換していることに気づく。明らかになっていくそれぞれの人間性。まぁ、その一つ一つは「あり得る」し、その気持ち悪さもわかる。でも、これだけ集まると……とでもいうか……
リーダビリティの高さ。そもそもの気持ち悪さ。そして、気づくと全く違う方向性に、という転換の見事さ。それらは、著者の手腕がこれでもか、と詰め込まれた感じがする。

No.4922

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