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(書評)凍てつく太陽

著者:葉真中顕



昭和20年。終戦間際の室蘭で、軍の将校と朝鮮人棒頭が殺害された。そこには、「カンナカムイ」の文字が……。その棒頭の組織に、潜入捜査をしていたこともある特高刑事・日崎八尋は、同僚である「拷問王」三影らと、捜査に値するが、その三影にぬれぎぬを着せられ、網走刑務所に収監されてしまう……
『ロスト・ケア』『絶叫』と言った作品は、社会問題などを題材に取ったわけだけど、本作もまた、エンタメ部分に主眼を置いた作品になっている。とはいえ、当時の歪んだ国家主義というのも感じられる。
日本人、だけでなく、併合をした朝鮮、さらにはアイヌと言った人びとも皇国民として一丸となり、戦いをしよう、という日本。しかし、実態としての差別は明らかに存在している。賃金、身分の格差。何よりも特高は、朝鮮人を危険視している。しかし、そんな八尋自身もアイヌの血を引くことから、三影からは「土人」と侮られる。そんな中での国民とは何か? という問いかけは確かに存在する。
で、物語は八尋、そして、三影、二つの視点で展開する。三影によって犯罪者として投獄されることとなった八尋。そこで待っていたのは、八尋自身が陥れた朝鮮人のヨンチョン。刑務所で待っていたのは、復讐される日々。しかし、自らの使命は、と考え、脱獄を決意する。ヨンチョンと共に……。こちらのパートは、とにかく、どう脱獄をするのか? そしてどう生き残るか? そんな冒険小説へとしての印象が強い。
一方、八尋を陥れた三影。しかし、八尋が感じた違和感は、彼自身も感じていたこと。軍は何かを隠していることは明白。そして、軍需工場関係者が次々と殺害されていく。そのキーワードは「カンナカムイ」と言うもの……。八尋に対するもの言いなどは何だけど、しかし、彼なりの正義感はしっかりとあり、家族は大切にしている。そんな彼もまた、魅力的な主人公としてしっかりと存在感を示しているのは流石。こちらは、ミステリとしての骨格を強く感じた。
そして、その物語の鍵となる「カンナカムイ」の実態。ひっくり返し。この辺りも含めて、最後まで引っ張った物語が面白かったのは確か。ただ……
一方で気になった部分があったのも確か。というのは、当初あった、皇国民と言いつつも、というメッセージとかが弱くなった感じ。なんか、途中で作品のカラーが変わった、とでもいうか……。それ自体は悪いことではないのだけど、何か腑に落ちない、という部分もあったりなかったり。

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