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(書評)走馬灯症候群

著者:嶺里俊介



平成2年12月。通信会社NJTTの社員として、始発から終電まで、というような日々を送る咲元。そんな彼は、自分ですら覚えていないような過去の夢を見るようになる。そして、時を同じくして、彼の周囲で不可解な出来事が起こるように。そんなときに再会した中学時代の先輩で、民俗学者の牧野は、そのことについて調べていて……
著者のデビュー作である『星宿る虫』と同じく、奇妙な病(?)を題材とした作品。ただ、前作が物凄くグロテスクだっただけに、本作は抑えめに感じられた。
物語の中心となるのは、咲元が見る「夢」。自分ですら覚えていないような幼いころからの出来事から始まり、少しずつ夢の中の年齢は高くなっていく。そして、自分の実年齢に追いついたとき……
ランダムに過去のことを夢で、ということはある。しかし、時系列に沿って、というのは明らかにおかしい。しかも、過去、同じような夢を見て死んだ者は、その前にも共通点があり、咲元にもそれと同じことが起きている。このままでは……。状況証拠としては、咲元が死ぬのは確実。しかし、あくまでも状況証拠であり、病原菌が出るわけでも何でもない。それを止めるにはどうすれば良いのか? そもそも、感染症であるのなら、もっと多くの人に広がっていなければならないはず。それは何なのか? 読みながら、鈴木光司氏の『リング』とか、そういうのも頭に浮かんできた。
その上で印象的なのは、職場の様子。バブル絶頂期の日本。そして、電電公社が民営化されて、という状況。著者自身がNTTの社員であった、というところから考えても、ちょうど、著者の経験に裏打ちされた描写になるんじゃないかな、と思えてならなかった。……というか、牧野が教鞭をとっている大学も、学術院大学で目白駅前で、ピラミッド校舎があって、って……著者の出身大学そのままだよなぁ、と(笑) ただ、その奇妙な病の謎を追う、というのではなくて、それはそれで心配なのだけど、日常の、それも多忙すぎるくらいに多忙な日々というのが挿入されることで、リアリティのある形に持ってきている、というのは素直に上手い。
物語が咲元、牧野という二つの視点で綴られる関係上、メタ視点で読む読者としては「これが怪しい」というのを感じつつも、なかなかそこに触れられないもどかしさがあったり、解決の方法がちょっと「そんなので良いの?」と思う部分はあった。あったけど、でも、投げっぱなしのようにも感じられたデビュー作と違い、しっかりと風呂敷も畳まれていて、ほっとした読後感があったのも確か。しっかりと完成された作品になったな、というのを感じた。

No.4956

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