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(書評)ドッペルゲンガーの銃

著者:倉知淳



応募作が新人賞の佳作を受賞したミステリ作家の卵である灯里。しかし、第2作がなかなか書けないでいる。そんなとき、勉強だけは出来るため、警察キャリアとなった兄が出会った不可解な事件を知る。兄を上手いこと利用し、その現場へ赴いて、次作のネタを、と試みるのだが……
という連作短編集。全3編プラスα収録。
最初にネタバレ(?)を書いてしまうと、オチで灯里が担当編集者に言われるように、地味だったりとか、そういうトリックが多いのは確か。ただ、頼りない兄を上手く使っての誘導やら、はたまた、本当に探偵役たるとある存在とのやりとり。そういう部分のギャグなどと、しっかりとしたトリックで、ちゃんと本格モノとして成立しているのは流石。
1編目。『文豪の蔵』。
地元の作家が書庫として使っていた蔵。その中で起こった殺人事件。扉は南京錠によって施錠されており、その鍵は、作家の持つ書籍を調べていた大学教授が肌身離さずに持ち歩いていた。しかも、大学教授にはアリバイがあって……
事件現場が蔵の中であることは疑いようがない。しかし、そこにはいることは不可能。南京錠にもピッキングなどをされた形跡はなし。では、どうやって? キャラクターが初登場、ということもあって、その紹介みたいなところに随分と尺をとっている印象もあったのだけど、ちゃんとそれを活かしているところに納得。確かに、「そっち」は盲点になりやすいだろう。問題は、「その物」をどうやって入手するか、だけど、これもちゃんと伏線があるんだよな。
2編目は表題作。
20キロ以上も離れた場所で、ほぼ同時に起きたコンビニ強盗と殺人事件。ところが、双方の現場からは同じ旋条痕の残った銃弾が。勿論、数分でその距離を移動することは不可能。では、どうしてこんな状況が?
その不可能状況の魅力。そして、それを実現するための大胆なトリックが何よりも魅力的。双方の関係者の証言から、何が信用できて、何が怪しいのか、というのを絞り込んでいって……。ぶっちゃけ、このトリックの準備をどういう風にやったのか、ちょっと強引さも感じるけど、でも、謎の魅力で引き込まれた。
3編目『翼の生えた殺意』。
雪の降りつもあった朝、資産家の男性がその家の離れで首つり遺体として発見された。自殺の可能性が高い中、もし、事件だとすれば容疑者は3人の息子たち。しかし、長男は交通事故で車いす生活中。次男は、身体が大きく、力はありそうだが、こちらは手を怪我しているためロープを結んだりするのは難しい。唯一、健康なのは三男だが、極端に体格が小さく、実行するのは難しい。そして、何より、離れに向かって雪が積もった場所には、離れに向かう資産家自身の片道の足跡と、第一発見者である長男の車いすの後しかなかった……
これは……ちょっと反則気味な気がしないでもない。ただ、そこまでして、という一種の、涙ぐましい犯人の努力は想像すると大変そうだな、と滑稽だな、という不思議な感慨が残る。
ガッツリと、というタイプの作品ではない。ただ、ライトながらも、ちゃんと本格モノをやっている。そんな作品と言える。

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