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(書評)崩れる脳を抱きしめて

著者:知念実希人



広島から、神奈川のホスピスへと実習に来た研修医の碓氷。高額な入院費が掛かるが、本人の望むことは叶えられる、というそこで出会ったのは脳腫瘍を患う女性・ユカリ。外の世界に怯えながら暮らす彼女の不思議な魅力に、だんだんと惹かれていく碓氷だったが……
物語は2章構成で綴られる。
第1章は文字通りに碓氷とユカリの出会いの物語。経営していた会社をつぶしてしまい、借金が残る中、女性と失踪した父を持つ碓氷。父を憎み、とにかく「金を稼ぎたい」という想いを抱いている彼にとって、金持ちが、その金によって恵まれた余生を送っている、という状況自体が反感を覚えずにはいられない状況。勿論、そんな想いは隠しているつもりであったが、まだ20代と若いユカリにはお見通し。そして、そんなユカリに、自分自身の過去から解き放ってもらい……
医療についての描写とか、そういうものはあるものの、ユカリが、碓氷の過去のエピソードを聞き、その不可解な部分について推理してもらう、という流れは一種の安楽椅子探偵モノのそれ。確かに、言われてみれば奇妙なところは多く、その点について別の側面があるのでは? ということを考察すると……。ある意味では、ここで終わっても一つの物語としてはまとまっていると思う。
そして、そんな経験をし、広島の大学病院へ戻った碓氷……からの第2章。しかし、同期で、元カノの冴子にユカリに惚れているのなら……と発破をかけられたときに知ったユカリの死。いてもたっても居られず、神奈川の病院へ戻るのだが……
ここから物語の様相がガラッと変化する。勿論、元職員と言っても部外者になった碓氷に情報を与えることは出来ない、というのは当然であるが、しかし、碓氷が診たユカリなど存在しない、と言い張る院長ほかスタッフ。生真面目さ故の、精神疾患を抱えていたのだ、というが、納得は出来ない。そんな中、患者の一人の老人が言う「この病院スタッフを信用するな」の言葉……
碓氷が診ていたユカリは果たして実在するのか? それとも、病院に何か陰謀でもあるのか? 独自に調査を開始し、その足取りを追う中で見えてきたもの。上に、第1章だけでも、話が完成された話、とは書いたけど、当然、その場合、ユカリが入院患者である必然性とかはないわけで、その第1章の中でバラまかれた彼女の過去、仕草などが伏線として活きてくる様は圧巻。人間の悪意。そして、そんな中でも「患者の要望をかなえる」と貫いた病院。そして……
病院がやったことは、これで良いのか? という点はある。しかし、それ自体もちゃんと物語をまとめる為の道具としてちゃんと機能する形になっており、後味の悪さには繋がらないのも長所。結末はちょっと綺麗過ぎる気がするけど……これは、私がひねくれているだけだろう。
分量的にも、内容的にも、最初から文庫で刊行されるライトミステリ、キャラクターノベル的な色合いが強い気はするのだけど、話自体はしっかりとまとまっており、良い読後感で本を閉じることが出来た。
……まぁ、学生時代に空手をやっていて、やたらと喧嘩などには強い、という碓氷のパーソナリティ。サバサバとしていて、しかし、結構、お人好しで……という冴子のキャラクター。この辺りのやり取りは、「天久鷹央」シリーズの小鳥遊と、研修医・鴻ノ池舞のやりとりっぽいなぁ、と思ったり(笑)

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