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東京輪舞

著者:月村了衛



かつて田中角栄邸を警備していた新米公安捜査官・砂田修作。ロッキード事件の嵐が日本を駆け巡る中、CIAからの依頼という形で、へんりー・ワイズという男についての調査が始まる。砂田は、日本に留学中の、彼の娘と出会うのだが……
から始まる40年間に渉る物語……
物語は、ロッキード事件、東芝のCOCOM違反事件、ソ連崩壊、オウム事件、金正男確保事件……といった事件が世間を騒がせる裏での攻防戦という形で物語が進んでいく。
作中に出てくる事件はもちろん、実在する事件であるわけだが、直接、その事件を解決する、というよりも、その背後に蠢くKGB、CIAなどの諜報機関と公安、砂田の戦いを描いた形と言えるだろう。そして、それは、公安、砂田の敗北、挫折の連続に……
とにかく、読んでいて感じるのは、砂田の人間らしさ、というか、繊細さ、素直さ、みたいなもの。公安モノというと、それこそ、血も涙もないような捜査官が……っていうのもあるけど、本作の砂田はそれとは正反対。一応、ネタバレになるのだが、冒頭に書いた粗筋の、ワイズの娘、というのは、実はKGBの美人スパイ・クラーライである、ということになる。そして、その後の事件の中で、砂田は幾度となく、クラーラと対峙することに。最初の対峙において、クラーラに見事にしてやられた砂田。そして、その後の対峙、しかも、ソ連崩壊などの事件の中で再び出会う中で、クラーラの行動を深読みしすぎたり、はたまた、迷ったりして……。
これ、砂田の敗北、挫折の物語ではあるのだけど、しかし、同時に、一種のロマンスのようにも感じられるのが印象的。とにかく、常に砂田の前に現れて翻弄していくクラーラ。その中で砂田は、彼女のことを常に思い、執着せざるを得なくなっていく。しかし、それが今度は、砂田自身の家庭問題へと繋がったり……とこれまた敗北、挫折へ、とはなるのだけど、それが恋のようにも思えてしまう。
勿論、その一方で、公安、そして、警察組織の一種の事なかれ主義的な部分へのシニカルな視点というのも。砂田の上司にあたる者たち。指示、指揮などはする。しかし、事実上はミスであっても、それを覆い隠し有耶無耶にしてしまう。そして、出世への糸口へと転化させていく。ある意味、キャリア官僚のシステムがそうだから、とは言えるのだけど、事実上の敗北感を常に覚える砂田との距離感というのをだんだんと強くさせていく様は非常に印象に残る。そして、その最後の事件というのが、砂田が敬愛していた田中角栄の娘・田中真紀子の指示によって起こった金正男の確保と、その処遇というのが実に印象的。
所謂、スパッと事件の真相が判明して、というスッキリ感はない。しかし、そういう部分を含めてのリアリティ、なのだろう。

No.5000

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