著者:支倉凍砂


湯屋『狼と香辛料亭』を営むロレンスにとって、今の悩みは、家を飛び出てしまった一人娘・ミューリのこと。憔悴するロレンスを見かねたホロは、湯屋をセリムたちに任せ、ミューリを追う旅に出ることにするのだが……
という形で始まる短編形式の物語。
1編目『狼と湯煙の向こう』は、留守を任させたセリム視点での物語。ホロと同じく、狼の化身であるセリム。湯屋の中でも新参者。一通りのことはわかるが、人に指示を出すことにも慣れないし、冬の繁忙期がどうなのかもわからない。中止にしてくれないか? そう思いつつも、二人に言い出せないでいる。そして、そんな想いとは裏腹に、ホロとロレンスは……
なんつーか……これまでも、ホロとロレンスの仲が……っていうのは、新シリーズになって散々書かれてきたのだけど、視点を変えて、またかい! って思いがないではない。ただ、同じことを、地元での人間関係とか、そういうのを使って、しかも、一応、相手には隠しているつもりで……ってのは、この二人の関係性をしっかりと描いているな、というのを感じる。
で、この巻は、旅に出て、ということで新シリーズになってある意味では初めて、その土地の抱える問題に、というような話が多くなってきた。
美しい森に囲まれた村を訪れた二人。そこでは、森の木を伐採せよ、という意見と、森を守ろう、という意見が対立していて……という3編目『狼と森の色』。コルによる改革により、インクなどの値段が高騰し、また、燃料価格なども高騰している。安定して収穫などもある中、村を囲む森の木を伐採し、金に換えようという意見が強くなっていた。しかし、豊かな収穫は、盛り合ってのもの。その中で……
ロレンスがまだ行商人だったころであれば、ここまで単純に村の問題に、ということはなかったと思う。ただ、村の資源をどう使うのか? しかし、短期的な利益で、というのでは……。そういう点では、村おこし、とか、そういう意味では、このシリーズらしさを感じる。もっとも、解決策はバレバレな気がするけど。
で、最も行商人だったころの話に近いのは、『狼と旅の卵』。ニシン漁の盛んな街を訪れた二人。そこで、改革の聖女としてミューリの絵が……。「自分の絵が欲しい」というホロのため、資金稼ぎでニシンの先物取引に手を出すロレンスだったが、「賭博禁止」を歌う境界により、その取引自体を中止せよ、ということになって……
先物取引。しかも、思わぬ横槍によって、ロレンス自身が……というのは、過去のシリーズにもありそうな展開。短編形式なので、アッサリとしているが、多分、描こうと思えば長編にも出来る題材だったのではないか、と思える。
作中、先に旅に出て、しかも、教会の改革などを言うコルの存在感が色々なところで見え隠れ。その辺りも含めて、二重構造の旅の物語、というのが楽しめそうな気がしてきた巻だった。
No.5072

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
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湯屋『狼と香辛料亭』を営むロレンスにとって、今の悩みは、家を飛び出てしまった一人娘・ミューリのこと。憔悴するロレンスを見かねたホロは、湯屋をセリムたちに任せ、ミューリを追う旅に出ることにするのだが……
という形で始まる短編形式の物語。
1編目『狼と湯煙の向こう』は、留守を任させたセリム視点での物語。ホロと同じく、狼の化身であるセリム。湯屋の中でも新参者。一通りのことはわかるが、人に指示を出すことにも慣れないし、冬の繁忙期がどうなのかもわからない。中止にしてくれないか? そう思いつつも、二人に言い出せないでいる。そして、そんな想いとは裏腹に、ホロとロレンスは……
なんつーか……これまでも、ホロとロレンスの仲が……っていうのは、新シリーズになって散々書かれてきたのだけど、視点を変えて、またかい! って思いがないではない。ただ、同じことを、地元での人間関係とか、そういうのを使って、しかも、一応、相手には隠しているつもりで……ってのは、この二人の関係性をしっかりと描いているな、というのを感じる。
で、この巻は、旅に出て、ということで新シリーズになってある意味では初めて、その土地の抱える問題に、というような話が多くなってきた。
美しい森に囲まれた村を訪れた二人。そこでは、森の木を伐採せよ、という意見と、森を守ろう、という意見が対立していて……という3編目『狼と森の色』。コルによる改革により、インクなどの値段が高騰し、また、燃料価格なども高騰している。安定して収穫などもある中、村を囲む森の木を伐採し、金に換えようという意見が強くなっていた。しかし、豊かな収穫は、盛り合ってのもの。その中で……
ロレンスがまだ行商人だったころであれば、ここまで単純に村の問題に、ということはなかったと思う。ただ、村の資源をどう使うのか? しかし、短期的な利益で、というのでは……。そういう点では、村おこし、とか、そういう意味では、このシリーズらしさを感じる。もっとも、解決策はバレバレな気がするけど。
で、最も行商人だったころの話に近いのは、『狼と旅の卵』。ニシン漁の盛んな街を訪れた二人。そこで、改革の聖女としてミューリの絵が……。「自分の絵が欲しい」というホロのため、資金稼ぎでニシンの先物取引に手を出すロレンスだったが、「賭博禁止」を歌う境界により、その取引自体を中止せよ、ということになって……
先物取引。しかも、思わぬ横槍によって、ロレンス自身が……というのは、過去のシリーズにもありそうな展開。短編形式なので、アッサリとしているが、多分、描こうと思えば長編にも出来る題材だったのではないか、と思える。
作中、先に旅に出て、しかも、教会の改革などを言うコルの存在感が色々なところで見え隠れ。その辺りも含めて、二重構造の旅の物語、というのが楽しめそうな気がしてきた巻だった。
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