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バイリンガル

著者:高林さわ



30年前、アメリカで起きた母娘誘拐事件。多くの犠牲者が出たその事件の舞台となった学園都市を避けるように、永嶋聡子は日本で暮らしていた。そんなある日、聡子の息子の元を、事件の生き残りで、当時3歳だった少女と同じ名を持つ女性が訪ねてきて……
第5回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。
読んでいて、何か、翻訳ミステリを読んでいるような感じがした。いや、物語の舞台の大半がアメリカである、というのもあるし、何か、文体のリズムとか、そういうのも含めて、とでも言うか……。
物語の構成そのものも結構、独特。
物語は、現在(2005年)、学習塾で講師をしている聡子、その息子・無頼(ブライアン)の元に、仁奈(ニーナ)が訪ねてきた、というところから始まる。聡子にとって、30年前の事件というのは忌むべき事件。気楽に対応している息子とは対照的に、仁奈に厳しい視線を向ける聡子。しかし、その中で仁奈の日本へ戻ってきてからの日々等を聞き、そして、当時のことを騙り始める……、で、30年前の事件の詳細が……。そして、再び現代に戻り、改めて、当時の事件、そして、その生き残りの仁奈のアレコレで隠された真相に気づく、という流れ。
正直なところ、物語に入り込むまでちょっと時間が掛かった、というのはある。勿論、何か、聡子の中に、暴かれたくないものがある、という伏線であるのは確かなのだけど、やけに仁奈に対して偏見を含めた蔑視をしている聡子。さらに、過去パートでは、あまり状況がわかっていない中で、大学でのポストを巡ってのアレコレが展開されるため、ちょっと置き去り感を覚えたため。
ただ、その肝心の事件が発生してからは、一気に引き込まれた。誘拐犯からの脅迫の電話。そこに入っていた仁奈の言葉。バイリンガルを育てようとしたことによる言語障害。その言語障害の「法則」とでも言うべきもの。そこから読み解いて……
選者が島田荘司氏、ということもあって、本格モノの部分を強調した賞らしい謎解き、というのは存分に感じられた。また、30年前には気づけなかった部分、というのも、誘拐事件、さらには、その中で起こる不可解な殺人事件ということで無理がないし、ちょっと冗長に感じられたアメリカ編序盤のアレコレも意味を持っている、というのはよくわかる。そういう点ではしっかりと計算されており、メインとなる部分については納得のできるところだった。
ただ……聡子が隠していたことについては……。
いや、1970年代の状況とか、そういうのを考えれば、というのはわかるのだ。わかるのだけど、ある意味では余分とも感じるんだよな。それがなくとも、話としては決しておかしくないし、むしろ、序盤の、変な警戒心などで入り込みづらさ&期待値を上げすぎてしまった感があるだけに。
メインの謎部分が面白かっただけに、もっとすっきりした形でまとめても良かったのでは? そう思う。

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