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神のダイスを見上げて

著者:知念実希人



地球に向かって小惑星ダイスが接近中。政府などは、落ちる心配はない、と言うが、もしも落ちれば人類は滅びてしまう。その期限まであと5日。そんなとき、大学生の姉・圭子が何者かに殺害された。唯一の家族、「世界そのもの」だった姉の復讐をするため、高校生の亮は、犯人捜しを始めて……
犯人捜しのミステリ、というよりも、真相を知っての「家族愛という檻」のようなものが大きいのかな? と感じた。
冒頭に書いたように、物語の前提として、5日後に人類は滅びるかもしれない、という世界観。政府は大丈夫と言っているが、その言葉を人々は信用しておらず(公務員も含めて)、世の中に不安、そして、漠然とした諦観、そういうものが溢れている状態。
物語の流れは、まず、復讐のための拳銃を、クラスメイトであり、しかし、クラスでも変わり者と言われる四元美咲の紹介で手に入れる。そして、姉の恋人が犯人だ、という前提で、大学のサークル、そして、教授などを調べていくが……
世界設定とかは、こういう状況だったら……というのは理解できる。「裁きの日」は、神の思し召しである、という思想に取り憑かれ、宗教団体を化してしまう人々。そういった人々によって忙殺される中、実際の犯人などどうでもよい、と亮を殺人犯に仕立て上げて最後の時を家族と過ごしたい、という刑事。何よりも亮自身が、人類が滅びる前に、犯人に復讐をしたいと思っている。一種のパニックものとしての形と言えるだろう。そして、関係者を調べる中で、第2、第3の事件も起こって……
……となるわけなのだけど、正直なところ、犯人と言うか、首謀者というか、そういう部分はメタ的な視点で「多分、こうだろう」というのが想像できるんじゃないかと思う。
ただ、読み終わってみると、最初に書いた部分が強く印象に残る。特に、亮と美咲、双方の置かれた状況について、が。
というのは、両者は、どちらも「家族」という檻に囚われた存在だから。母に溺愛され、しかし、それは人形と同じであった美咲。それは、自分と母は、同じ存在であると思えるほどに。そんな母が末期がんになり、しかも、世界は滅びようとしている。その中で彼女がしたかったこと。一方の亮もまた、周囲からは「弟のことばかり」と言われるくらいに溺愛されていた。自分では、そこまで、と思っているが、しかし……。物語が開始された時点で、異なっている二人だったが、しかし、実はそっくりであった、というところが何よりも印象に残った。そして、その残酷さ、というか、気持ちの悪さ、というか、そういうものについても。
もっとも、姉の死を巡っての調査とか、世界観とか、そういうものと並行するだけに、もうちょっと人物像とか、そういう部分の掘り下げとかがあってくれればなぁ……という想いもあるのだけど。

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