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血腫 「出向」刑事・栗秋正史

著者:田村和大



「脳に特定の三兆候が出た場合、その児童は被虐待児である」 息子の異変を発見し、病院に搬送した父親の堀尾雄次は、虐待を疑われ警察へと連行された。筑紫警察署生活安全課の刑事・細井は、かつて警視庁捜査一課にいたという「出戻り」刑事の栗秋とともに捜査にあたることになって……
著者のデビュー作『筋読み』と同じく、医学的な話を中心にしているのだけど、物語としての完成度は抜群にあがっている。
物語の中心となるのは、子供を虐待した、とされる堀尾は本当に、その虐待をしたのか? という点。搬送された幼児には、確かに、虐待、いわゆる「揺れぶられっ子症候群」に特徴的な血腫が残されていた。そもそも、その子供は、本人が望まない形で始まった不妊治療の末に生まれた子供。普段は決して暴力的でも何でもないが、かつて、一度だけだが妻に手を挙げたことがあった。そして、本人は、弁護士の入れ知恵もあってひたすらに黙秘に徹している。
粗筋の冒頭に書いた、「三兆候が出た場合」というSBS理論。これは果たして正しいのか?
通報をした医師は、それは絶対だ、というが、懐疑的な見方も数多い。さらに、虐待についての捜査などを積極的にせよ、というような県警本部からのお達しもある。そのプレッシャーもある中……
そして、そんな一方で出てくるのは、栗秋自身のこと。そもそもが、警視庁捜査一課出身という異色の経歴。F県警に事実上の異動をしたのは、認知症の母の介護のため、とは説明されている。しかし、その背景に、F県警の警部補であった父の不可解な死があるのは確か。その事件について何かを探っている、というのも……。そのことが、F県警内での栗秋に対する警戒心という形でも現れている。
そういうい状況の中、当初は栗秋について懐疑的だし、その過去の話などにも迷いながらも、栗秋としっかりとコンビになっていく細井。ちゃんと相手の本質を見抜いていく栗秋という、それぞれの存在感も、王道かも知れないけど良かった。そして、虐待事件の真相は……。これは、医学の知識がないので、私には予想も出来なかったのだけど、「なるほど」という想いは抱けた。
物語の作りからして、「虐待」ではない、というのは最初からわかるし、栗秋自身についての事件については、「そういう形で解決するんだ」という想いがなかったではない。でも、比較的地味な事件を、丹念に調べて、というのが面白く、一気に読むことが出来た。

No.5090

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