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震える天秤

著者:染井為人



福井県のコンビニに、80代の老人が運転する自動車が突っ込み、店長が死亡した。アクセルとブレーキを踏み間違えた、という運転手は、認知症の疑いがあり、警察は責任能力を調べている最中。高齢ドライバーの事故についての記事を書くため、取材に訪れたフリージャーナリストの俊藤律だったが、取材を重ねるうちに、老人の周囲の人々が何かを隠していることに気づき……
著者の過去作品と比べて、まっすぐに社会問題に切り込んだ作品になっているな、というのがまず思ったこと。
とにかく読んでいて思ったのは、「何かがおかしい」という思い。粗筋で書いたように、認知症を患った老人が運転を誤って事故を起こしてしまった、という警察の見立ては筋が通っている。しかし、その加害者の周辺の人びとは何かを隠している、例えば、事故を起こしたトラック。保険にも入っておらず、車検切れだった、ということは判明していたが、そもそも、その老人の持ち物ですらなかった。確かに、わざわざ言わなかっただけ、でも話は通じる。しかし、現場に居合わせたアルバイトの女子高生も、加害者の近所に住んでいた。さらに、素行の悪さが目立つ存在で、過去に何かやらかしたらしい。そもそも、認知症を患っていた老人が、そのコンビニまで何も問題なく、運転していけるのか?
一つ一つは、些細なことかもしれない。けれども、これだけ集まれば……。でも、あるのは違和感のみで、客観的な証拠などには乏しい。そんなもどかしさにどんどん惹きつけられた。
そんな謎を追う、律自身もちゃんと、その違和感へと飛び込んでいくだけの背景があるのが上手い。過去、律が放ったホームラン級のスクープ。しかし、取材の足りなさから、それは一面的な事実だけを切り取り、最悪の形で収束させることとなってしまった。もう、そういう形にはしたくない。そんな思いを抱きながら、律が辿り着いた真相……
正直なところ、それで良いのか? という思いを抱かないではない。しかし、律の物語、としては、それで納得して……でしっかりと完結しているのだと思う。ただ、その一方で、関わった人々は……。「今は」いいかも知れない。でも、十字架を背負っての今後は……。そんなことも気になる結末だった。

No.5291

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