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失われた過去と未来の犯罪

著者:小林泰三



女子高生の梨乃はある時、記憶が短期間で消えてしまう、ということに気づく。この現象は、世界中で同時多発的に発生し、世界はパニックに陥った。……それから十数年記憶する能力を失った人類は、外部記憶装置なしでは生きられなくなって……
SFと言えば、SFなのか……。
裏表紙の粗筋には「ブラックSFミステリ」とあり、確かにそれであっていると思うのだけど、同時に、結構、色々と考えさせれる作品だ、といのも感じる。
物語は2部構成になっている。第1部は、冒頭に書いたように、ある時、自分の記憶が数分しか持たなくなってしまった、ということに気づくところから始まる。ふと気づくと、「自分は何をしていたんだっけ?」という状態になる。そこで、ノートに自分の行ったことを記録していく、ということになるのだが……勿論、そうはならずに、同じことを繰り返す者もいて……
そして、第2部では、長期記憶が出来なくなったため、人々は外部記憶装置を着けることに。だが、その記憶装置の取り違いが起きたり、はたまた、死者の記憶装置を身に着けて、死者と再会できるという「イタコ」という職業が生まれたり……
ギャグと言う面もある。実際に、同じことを繰り返す天丼的なギャグがあったり、ドタバタとか、そういう面もある。あるのだけど、読んでいて思うのは、アイデンティティって何だろう? ってことだったりする。特に第2部の内容。自分で記憶を維持することが出来なくなった人類。外部記憶装置をつけることで、というのだけど、それはパソコンでいうところのHDDと同じ。それを他の肉体につければそちらが自分の肉体のように思えてくる。そうなると……。事故にあった子供を助けるため、自分の肉体に子供の記憶装置をつける者。不慮の事故で好感されてしまった者。自分の肉体と記憶、意識の違いに戸惑いながらも、その生活を続ける中でやがて、自分自身はどこにあるのか? ということを忘れていってしまう。そのようなエピソードを繰り返していって……
物語の結末としては、さらに一歩踏み込んで、というところで、今度は人間とは何か? とか、そういうところへと行くわけだけど、そういう点も含めてアイデンティティについての物語、なんじゃないかな? と思えてならない。

No.5311

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