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境内ではお静かに 縁結び神社の事件帖

著者:天祢涼



大学を中退した壮馬は、神社の宮司となった兄の勧めで、縁結びのパワースポットとして人気を集める源神社で働くことに。そこで彼の教育係に任命されたのは、参拝者以外には笑顔を見せないクールな女子高生巫女・久遠雫。そんな神社の周辺では、奇妙な出来事が次々と起こって……
という連作短編形式で描かれる物語。
まぁ、こういう言い方をするとアレだけど、一見、昨今多い、ライトミステリかな? と言う感じ。実際、最初はツンとしていた雫に苦手意識を持っていた壮馬が、だんだんと雫に魅かれていく。でも、雫は……? みたいな展開も待っているし。
ただ、例えば、壮馬自身が、自分で感じているように神様とかに対する信仰心は皆無。源神社では、源義経を御神体として祀っている。しかし、現実の源義経はと言えば……。勿論、神社の経営という意味で、お金が必要なのはわかるが、拝金主義。そんな現実を見せつけられて……
そして、事件も、結構、社会問題とか、そういうのを含んでいる。例えば1編目は、源神社が管理している無人の神社が心霊スポットと言われ、若者が大騒ぎしているから何とかしてほしい、という依頼が入る。しかし、その背景には……。神社と言っても、無人のものとか、そういうものがあるけど、それは誰が守っているのか? なんていう蘊蓄と、それを訴えた側の、ある意味、おかしいのだけど、でも切実な想い。そういうのが印象に残る。
また、2編目は、祭を巡り、それを中止せよ、という手紙が……。一種の脅迫文であるが、祭というイベントがしかし、人によっては傷を抉ることになる、なんていうのもあるだろう。
厳密にいえば、最初の頃の事件も刑法犯罪に当たるのだけど、だんだんと文字通りの犯罪と言えるものに近づいていき、その中で、雫の危うさとかも露わに。そして、最終編で……
先に、恋愛要素などもあって……と言う風に書いたのだけど、その辺りの部分が、物語全体のひっくり返し。さらに言えば、壮馬自身の成長とか、そういうところに結びついているのが上手い。ある意味では、有耶無耶、なのだろうけど、テーマには合っているわけだし。
軽めのライトミステリというテイストを貫きつつも、著者らしさがしっかりと出た作品じゃないかな? と思う。

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COMMENT 1

根岸鴨  2020, 02. 19 [Wed] 23:22

こんばんは。著者にしてはライトな作品かと思ったんですが、読んでみるとそう軽くないのが意表をつかれました。

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