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正体

著者:染井為人



埼玉県で一家を惨殺し、死刑が確定した元少年・鏑木慶一が脱走した。1年以上にもわたり、警察の目を掻い潜って、潜伏と逃亡を繰り返す鏑木の目的とは?
物語は各章・「脱獄から〇日目」というタイトルで、その中身は、各章の主人公が日々を送る中で、その職場に現れた一人の青年との交流、という形で綴られていく。場末の飯場、ニュース配信サイトの編集部、雪山の旅館、パン工場、グループホームの介護現場……
それぞれのエピソードにおいて、その青年は、ちょっとその場の雰囲気からは外れている。周囲と交流を持とうともしない。けれども、じゃあただ不愛想なのか、と言えばそうではなく、頼み事などをすれば応えてくれる。いや、それどころか、時にとんでもない大胆さすらをも発揮する。そんな中で、しかし、各章の主人公たちはふとしたことで、その青年が逃亡犯ではないか、という疑念を抱くことになり……
各エピソード。例えば、第1章の飯場での物語。下請けの下請け。気が荒かったり、で、根無し草生活をする者ばかりの場所。そんな中、一人の労働者が怪我をして、休業せざるを得なくなってしまい……。労働基準法などのルールが全く遵守されていない現場。労災などが適用されるはずの事故であってもそれは同じ。そんなとき、風変りな青年は……
各エピソード、そんな形であり、何かを隠しているのだろう、というのは明らか。そして、風変りであるのも事実。でも、決して巷でいわれるような残忍な犯罪者であるとは思えない。そんな印象を抱かせる。
タイトルの『正体』。一義的には、当然、各章の主人公たちの前にいる、その青年の「正体」は? ということになるのだろう。でも、同時に、そんな青年が逃亡犯だ、ということを知ったときの周囲の反応、というのは、その人物たちの本性と言う名の「正体」を現すものになると言えるだろう。そして、そんな逃亡犯・鏑木の目的は……
最後の最後に、ひっくり返し、というか、ある種、司法に関しての問題提起などが出てくるのだけど、これもある意味では「正体」なのかもしれない。公正に、推定無罪、そんなことが言われつつも、有罪率99.9%。ミスというのが、自らの評価を下げる、というところからそれを認めない官僚機構。こうやって第三者的な立場から読者は読むから、滅茶苦茶な事件、と思えるけど、作品の世界に入ってメディアなどがつぶさにその凶悪さを報じていたら……とか、そう考えると……
各章の主人公視点で綴られる、短編的なエピソードを続けながらも、その中で何重にも考えさせられる「正体」の意味、というのが余韻として残った。

No.5416

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