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夜の淵をひと廻り

著者:真藤順丈



東京都のエアポケットのような町・山王子。職務質問と巡回が大好きで、管轄内で知らないことがあるのが許せない巡査・シドの元には奇妙な事件が呼び寄せられて……という連作短編集。
著者らしいやりとりとか、キャラクター設定とか、そういうのはあるんだけど、かなりしっかりとしたミステリ作品に仕上がっているな、というのがまず第一。
最初に言うと、物語の序盤は「?」っていう思いはあったりする。プロローグ的な1編目『蟻塚』は、いきなり同僚と共に凶悪犯に襲われて、という終わり方だし、2編目『優しい夜の紳士』にしても、職務質問をかけた老紳士から奇妙な感覚を味わされて、というところから始まる。なので、最初、これはファンタジー色が強い作品なのかな? とすら思った。ただ、その2編目で起きる通り魔事件の真相から、一気にミステリ色が強くなっていく。
2編目の事件は、祭の夜、そこを訪れていた客を次々と殺傷して逃走。死傷者は10人にも及ぶ。まもなく、被疑者は確保されるが、最初の殺傷シーンを目撃したという女性は、加害者と被害者が逆転していると証言する。そして、シドの捜査というか、調査の結果……。襲われた母娘の行動に関する違和感。被害者たちの共通点。そこから、通り魔事件の様相が鮮やかにひっくり返す様は見事の一言。
一番、印象に残るのは『悪の家』かな? 警察が、住人の情報を得るために書いてもらう巡回カード。ところが、あるロッジに住む人々は、誰もそれを出そうとしない。その家が気になるシドは、勝手にそのロッジについて調査をするのだが、行方不明になった女性がおり、狭いアパートであるにも関わらず、家族5人が暮らしていた。勿論、それが違法とか言うわけではない。ないのだが、何かがおかしい。
皆が「良い人」だという大家に対する違和感。そして、その悍ましい実態と、行方不明になっていた女性が実は……という結末。勿論、ファンタジーではあるんだけど、外国人技能実習生とか、ああいう現実の事件などを思い出しながら読むと、ファンタジーっぽい雰囲気を匂わせつつも、まるっきりのフィウションとも思えない、というまさに「淵」を歩んでいるような怖さを感じる。
と、結構、シドの妙な性癖などが結果的に、という部分が多い話が多いのだけど、『ぼくは猿の王子さま』のように、シドたちの留守中を狙って交番を訪れる一人の男を巡って、シドが町のお巡りさんとして、地域の人々に慕われており、シドもまた地域の人々を愛しているのだ、と感じられる人情味を感じる話もあったりして(その背景には陰惨な事件もあるのだけど)、かなりバラエティに富んだ作品集になっている。
シド、上司のクラタ、後輩の相澤といった面々のやりとりとか、そういうのは、いつもの著者らしさを感じさせ、そのテイストでミステリを書くと、こんな味わいを得られるのだな、というのを思った。

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