著者:牧野圭祐


極東の島国にある「星町」に住むミサは、宇宙飛行士のイリナやレフに憧れ、宇宙を夢見る高校生。親友・カレンと喧嘩別れしたまま離れ離れになり、孤独の中にいた彼女は「星祭り」の夜、転校以来、一度も登校してこないクラスメイトのアリアと出会う。そして、二人で宇宙を旅する列車に乗り込んで……
タイトルにもあるように『月とライカと吸血姫』シリーズのスピンオフ作品。声劇作品の脚本であったものを著者自身が加筆修正し、小説としたもの。
勿論、この作品はシリーズの世界観を引き継いでいるわけだけど、同時にタイトルでわかるように宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』をモチーフにもしている。そして、物語はミサとアリアが、宇宙を旅する列車で、太陽系の様々な惑星を巡りながら、その中で会話をしていく、という形に。
まず、読んでいて面白いのは、二人が巡ることになる星々。太陽系の星々ではあるのだけど、現実のそれとは異なり、火星では果てしなく戦争が続けられていたり、木星には耳があったり……。勿論、ミサ自身もそれは違う、とわかっているのだけど、そんな不思議な形の星々の様子がまず魅力的。そして、そんな中で思い出すのがカレンとのやりとり。
そもそも、ミサが宇宙へ、という興味を持ったのがカレンに影響されてのもの。そんなミサに対し、アリアが問うのは、それは本当にミサの夢なのか? ということ。ミサの言葉をすべて肯定する、というアリア。だからこそ、ミサは自分自身の想いに正面からぶつかることになる。そして、そんなアリアの思うところは……
喧嘩別れをしたカレンが、本当に思っていたこと。ミサが抱えていた迷い。そして、アリアとのやりとりによって分かった自分の心……
時代背景としても、丁度、日本が高度成長時代に入り、ミサらは受験戦争などと呼ばれる世界に足を踏み入れた時期でもある。夢はどんどんと膨らむ。けれども、そこへ到達するためには、並大抵ではない努力なども必要。だからこそ、迷いも生じるし、不安にもなる。勿論、いつの時代でも、そういう思いはあるのだろうけど、シリーズの背景である1960年代という時代がより、ミサの迷いとか、そういうものにマッチしているんだろう、というのを感じる。少なくとも、現代のように、「宇宙飛行士とかになるには、こういうルートで……」とはっきりとわかる時代とはまた違うわけだし(当然のことながら、ルートがわかっていても、難しい道なのは確かだけど)
一晩の不思議な出来事。その中でミサが、色々なことを想い、考え、そして一歩を……。分量的に、それほどある作品ではないのだけど、長い旅をし、その中での成長というのが感じられる美しい作品だと感じた。
No.5439

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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
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極東の島国にある「星町」に住むミサは、宇宙飛行士のイリナやレフに憧れ、宇宙を夢見る高校生。親友・カレンと喧嘩別れしたまま離れ離れになり、孤独の中にいた彼女は「星祭り」の夜、転校以来、一度も登校してこないクラスメイトのアリアと出会う。そして、二人で宇宙を旅する列車に乗り込んで……
タイトルにもあるように『月とライカと吸血姫』シリーズのスピンオフ作品。声劇作品の脚本であったものを著者自身が加筆修正し、小説としたもの。
勿論、この作品はシリーズの世界観を引き継いでいるわけだけど、同時にタイトルでわかるように宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』をモチーフにもしている。そして、物語はミサとアリアが、宇宙を旅する列車で、太陽系の様々な惑星を巡りながら、その中で会話をしていく、という形に。
まず、読んでいて面白いのは、二人が巡ることになる星々。太陽系の星々ではあるのだけど、現実のそれとは異なり、火星では果てしなく戦争が続けられていたり、木星には耳があったり……。勿論、ミサ自身もそれは違う、とわかっているのだけど、そんな不思議な形の星々の様子がまず魅力的。そして、そんな中で思い出すのがカレンとのやりとり。
そもそも、ミサが宇宙へ、という興味を持ったのがカレンに影響されてのもの。そんなミサに対し、アリアが問うのは、それは本当にミサの夢なのか? ということ。ミサの言葉をすべて肯定する、というアリア。だからこそ、ミサは自分自身の想いに正面からぶつかることになる。そして、そんなアリアの思うところは……
喧嘩別れをしたカレンが、本当に思っていたこと。ミサが抱えていた迷い。そして、アリアとのやりとりによって分かった自分の心……
時代背景としても、丁度、日本が高度成長時代に入り、ミサらは受験戦争などと呼ばれる世界に足を踏み入れた時期でもある。夢はどんどんと膨らむ。けれども、そこへ到達するためには、並大抵ではない努力なども必要。だからこそ、迷いも生じるし、不安にもなる。勿論、いつの時代でも、そういう思いはあるのだろうけど、シリーズの背景である1960年代という時代がより、ミサの迷いとか、そういうものにマッチしているんだろう、というのを感じる。少なくとも、現代のように、「宇宙飛行士とかになるには、こういうルートで……」とはっきりとわかる時代とはまた違うわけだし(当然のことながら、ルートがわかっていても、難しい道なのは確かだけど)
一晩の不思議な出来事。その中でミサが、色々なことを想い、考え、そして一歩を……。分量的に、それほどある作品ではないのだけど、長い旅をし、その中での成長というのが感じられる美しい作品だと感じた。
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