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オブリヴィオン

著者:遠田潤子



妻・唯を殺害し、4年間の服役を終えて出所した吉川森二。他者との交流を拒み、孤独に生きることを決めた森二だったが、娘・冬香からは糾弾され、義兄・圭介との絆は失われた。さらに、ヤクザである実兄・光一からは、自分の手伝いをしろと誘いをかけられる……
「後悔」がテーマなのかな?
物語の出発点は、冒頭に書いた通り。妻を殺害し、娘は義兄に引き取られた。孤独に生きたい、と願う森二だったが、実兄、義兄、双方が自分の周囲には近づいてくる。なぜ、妹を殺害したのか、と迫る義兄。自分の手伝いをしろ、と誘ってくる実兄。放っておいてほしい、という彼の願いとは裏腹に、周辺は蠢く。
そして、その中で語られるのは、森二の生い立ちと、圭介・唯兄弟とのこと。
理髪店を営み、趣味は競艇という森二の父。決して無茶な賭け方をするわけではなく、ごくまっとうな人間だった父。しかし、ある時に森二が起こした「奇跡」によって、その人生は狂ってしまう。それがなければ、父を殺し、兄もまた道を踏み外すこととなったことへの罪の意識。そして、一方で、そんなときに、自分をまっとうな道へと戻すために尽力してくれたのが圭介・唯。その支援もあり、大学を卒業。難関資格も取得し、唯とも結ばれた。しかし、その娘・冬香は自分の子ではない、とわかり……
父を殺し、兄の人生をも狂わせた、という後悔。そして、文字通りの意味で妻を殺したことの後悔。そんなものが、常に物語に付きまとっていく。その中で浮かび上がってくる謎は、冬香の父は誰なのか? そして、なぜ、森二は妻を殺したのか? 後者については、読者にとっての謎、ではあるが。
森二の視点で綴られ、常にその後悔が漂っているのだけど、読むにしたがって圭介、光一らの劣等感のようなものも浮かび上がってくる。圭介は、妹を失ったこと、というのがあるけど、なぜ彼は結婚しようとしないのか? 唯との関係は、ただの兄妹というだけのものなのか? 一方、光一にとって、弟は家庭を破壊した現況。その裏にあるのは、狂ってしまった父の、自分と弟に対する視線に対する感情がある。そのほの暗い感情の交錯に引き込まれた。
正直なところ、冬香の父が誰なのか? っていう部分は、終盤までほとんどクローズアップされなかった存在が……で多少、拍子抜けしたところはあるし、圭介にしろ、光一にしろ、終盤、いきなりきれいになりすぎじゃないか? とは思った。そこまで感情のしこりが、すっきりと解決するものか、って……
そこがちょっと残念だったのだけど、作中に流れる雰囲気とか、そういうものは非常に魅力的だった。

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