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歌舞伎座の怪紳士

著者:近藤史恵



生活に不満はないが、不安はある。家事手伝いの岩井久澄は、仕事を辞めて以来、料理と姉の犬の世話という役割をこなして暮らしていた。そんなある日、祖母のしのぶから、自分の代わりに芝居を見に行き、感想を伝える、というバイトを持ち掛けられる。初めての経験に戸惑いつつも、その世界にのめりこんでいく久澄。だが、そんな彼女は、いつも劇場で出会う親切な老紳士は何者なのか、という疑問を抱いて……
何か、著者の得意、好きなものを詰め込んできたな、という感じがする。
物語は、舞台観劇に行った久澄が、そこで不思議な出来事、トラブルに巻き込まれ、老紳士・堀口と共にそれを解決する、という連作短編のような形式。
チケット詐欺の犯人と間違われたり、劇場の爆破予告騒動に巻き込まれたり……。
そんな事件を解決していくわけだけど、その中で感じるのが、久澄の将来に対する不安。大学を出て、就職をしたものの、会社内でのトラブルの結果、パニック障害を発症してしまった久澄。キャリアウーマンの母、眼科医として独立した姉。二人の手伝いをし、小遣い程度の自由になるお金も貰えている現状に不満はない。けれども、将来はどうなるのか? 出会った事件の中で、犯人の抱えていた状況に共感したり、甘えている、という周囲の言葉に傷ついたり……。作中、久澄が再就職を目指し、ハローワークへ行ったとき「あなたはまだ若いから大丈夫」と言われたりするのだけど、そこで久澄が感じるのは、「では、若くなくなったら?」というもの。いや、ネガティヴにとらえすぎだろう、って気がしないでもない。でも、一度、パニック障害などになってしまったことで、再び……という不安を抱えるのはある意味で当然のこと。その辺りの機微がすごくわかる。物語が、最初は劇場で起こったトラブルから、だんだんと久澄自身へ……となっていくから、余計にそう感じた。
そして、当然、そのなかで気になってくるのが、堀口は何者なのか? 評論家、という風には言っているが、しかし……
そもそものきっけかとなった祖母からのバイト。そこから、祖母と堀口の過去へと結びついていって……。順調に思える堀口、祖母の苦い過去。その中での苦しみ。さらに、久澄の周囲の人々……
不安はある。けれども、自分だけではない。それを乗り越えることもできるんだ。そういう優しいメッセージが最後に感じられた。

No.5494

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