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吸血鬼は僕のために姉になる

著者:景詠一



丘の上の屋敷には、盲目の吸血鬼が住んでいる。そんな噂を聞いたのは、僕が小さい頃。唯一の肉親であった祖父を喪った僕は、件の女性・霧雨セナに引き取られた。彼女の正体は噂通りの吸血鬼。ただし、心配性でおせっかいな性格で、姉のような存在。おまけに、物理的な距離が常に近くて……
第8回集英社ライトノベル新人賞・銀賞受賞作。
なんか、自分が書いた粗筋だと、吸血鬼であり、姉のような存在になったセナと、主人公の日向がイチャイチャする話みたいに読めるな……
まぁ、実際問題として、吸血鬼ではあるのだけど、恐ろしいとか、そういう感覚は全くなく、結構、抜けていたりするセナが、過保護なお姉ちゃんとして接したりするシーンがあるので、それでも間違ってはいないけど、どちらかというと、人と人ならざる者、の関係性とかそういうところがメインになるのかな?
吸血鬼など、人ならざる者・幻想種。人々の近くに、その存在はいるのだけど、人はその存在に気付くことがない。しかし、日向は、セナと出会ったことで、周囲にそんな存在にあふれていることを知る。そして、それは、日常だと思っていたこれまでの生活の中にも……
幼馴染の心音。親友の佐伯……そんな当たり前だと思っていた存在もまた……
幼馴染で、自分に心を開いてくれる心音。しかし、そんな彼女は、実は鬼。でも、鬼であろうと、自分のことを想ってくれている。しかし、人間と鬼、種族は違っている。そして、心音にとって、「好き」という感情は一体、何なのか? 単純な好意だけでなくて……。一方、そんな心音へとけしかけた親友の佐伯。だが、彼は幻想種ではなく、虚構種。確固たる存在である幻想種と違い、常に移ろい、消えてしまう存在である虚構種の彼が望んだことは……
人と人ならざる者である存在の関係性。その間の隔たりと、でも、そんな種を超えた関係性というのが、これらのエピソードによって示唆される。そんな中、物語は日向、そして、セナの関係性に……
人ならざる者の管理者であった日向の曽祖父。それは、セナの初恋の相手であり、決して結ばれない存在でもある。そんな二人の過去。だからこそ、祖父は、そんな一族の運命を押し付けたくなかった。でも、そんな過去を知って日向は……
家族。それは、色々な形がある。傍から見れば歪な場合だってある。でも、本人たちにとってそれがあるべき姿。日向にとっての祖父との関係。そして、これから築こうとするセナとの関係。人と人ならざる者。形は多少歪かもしれない。けれども……。作中、しつこいくらいに関係性を描いてきたからこそ、二人の意思を感じさせる結末だった。

No.5510

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