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暗鬼夜行

著者:月村了衛



「薮内の読書感想文、昔の入選作のパクリだって」 SNSに記されたその一言。感想文コンクールへの出展が決まった作品に対して生まれた疑惑。文芸部顧問であり、疑惑の生徒・薮内の指導をしていた汐野は、その騒動の収集の責任者に任命される。ところが、その騒動は、ただの盗作疑惑から思わぬ広がりを見せていって……
いや~……本当に嫌な雰囲気が漂った作品。
冒頭に書いた粗筋だと、盗作疑惑について調査をして……みたいな話かな? と思われるかも知れない。けれども、物語はそうではない。
元々、大学では文学を専攻し、作家としてのデビューを狙っていた汐野。しかし、あと一歩、というところまでは行ったものの、デビューには至らず、仕方なく教職に。あくまでも、デビューまでの腰掛、と考えていたものの、実際になった教職は多忙を極め、創作などとは程遠く、倦んだ日々。そんな中、読書サークルで知り合った女性と婚約をするものの、彼女の父は県議会議員。その後継者になることが結婚の条件。そのためには、それだけの実績が必要。そのためには、この騒動を静かに幕引きすること。
そんな中で浮かび上がるのは、コンクールのライバルと言える存在。その少女の父は、疑惑の少女・薮内の父、そして、婚約者の父が進めている学校の統廃合に対し、強硬に反対しているグループの中心人物。
ただの盗作疑惑が、学校の統廃合を巡っての政治的な騒動へと拡大。さらに、その騒動を聞きつけたネットメディアも現れて、騒動はますます過熱。そんな中で、何とか鎮めようと画策する汐野だが、次々と思わぬ形で新情報が出ていく。
というわけで、そもそも、汐野は、この騒動に関しての利害関係者。しかも、汐野自身が結婚する、というのは、自分の生んだ日々からの脱出という一発逆転のチャンス。そのためにも、という想いがある。だからこそ、騒動はどんどんスリリングになっていく。その上で、どんどん汐野の自意識とか、そういうものがどんどん露になっていく。そして、最初にSNSに投稿した存在が明らかになった時に……
自分がどういう存在なのか、というのをこれでもかと突き付けられる汐野。そして、その汐野をして「自分と同じ」と思わせるその相手。しかし、その相手は止まらない。それは、汐野自身が歩んできた道そのものであるから……
読み終わってもやっぱり感じる嫌な後味。でも、自我やら何やらがぶつかり合っての騒動の末がきれいに終わるはずもない……ってことなんだろうな。

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