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秘仏探偵の鑑定紀行

著者:深津十一



彫刻教室を手伝いながら、仏師を目指す織田昌人。彫刻を手にすると、その作者視点で製作過程を追体験することができる昌人は、教室にやってきた大学准教授・八代にその能力を見込まれ、仏像についての調査を手伝うことに。20年前に出版された小冊子に導かれ……
という感じで始まる3編を収録した連作短編。
久しぶりに読んだ著者の作品なのだけど、また、ちょっと変わった趣向を持ってきたな、という感じ。
冒頭にも書いたように、主人公の昌人は彫刻を手にすることで、その制作者の意識を追体験できる、という特殊能力の持ち主。その力を使って……ということではあるのだけど、でも、いきなりそれを触って、とか、そういうわけでもない。一方で、仏像などについての研究をしている八代と行動を共にして、ということで、歴史ミステリ的な考察などもある。その辺の組み合わせ方が上手い。
例えば1編目『地蔵菩薩編』。錫杖を持った仏像、という奇妙なもの。それはいったい何なのか? そこだけでも十分に面白いのだけど、その寺を訪れる女性が祈りをささげると倒れてくる地蔵……なんていうものも関わってくる。その祈りの言葉に隠された意味。そういうものが加わっていって……。謎事態の正体は、こうかな? と想像は出来たのだけど、その錫杖の使いかたなども含めて、どういう方向の物語なのかよくわかった。
で、2編目『虚空蔵菩薩編』では、勿論、仏像の正体を……となるのだけど、同時に、大学を休学して山伏の修行を始めた学生なんていう話が出てくる。その大学生は何のために山伏に? 彼を追って、昌人が山登りをする羽目になったり……とか、いろいろと話が錯綜しながらもその仏像を作った意外な人物とか意外性に溢れている。
ガッツリと歴史ミステリっていうわけではないし、特殊能力メインっていうわけでもない。ガッツリと、そういう方向を、と期待していると違う、と感じることもあるかもしれない。でも、色々な要素を入れて、しっかりとかみ合った感じにするのは見事だな、と感じる。

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  • 2020.08.31 (Mon) 23:19 | 刹那的虹色世界2.0