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ノン・サラブレッド

著者:島田明宏



スポーツ紙「東都日報」の記者・小林の元に入った一本の電話。それは、数多くの優駿を出しながらも、血統不明ということで「サラ系」として歴史に埋もれてしまった名牝・ミラの血統表が、北海道のある牧場で発見された、というものだった。急ぎ、牧場へ駆けつける小林。しかし、その牧場主は一家心中で死亡していた……。一方、1970年代初頭。厩務員・大谷の元に一頭の馬がやってくる。ホーリーシャークと名づけられたその馬は、サラ系で気も荒い馬であったが、その中に光るものが感じられ……
集英社文庫から刊行されている著者の競馬ミステリー作品の第4作。
まず思ったのが、これまでの著者の作品の中で、最も、現実の話とかを取り入れての話になっている、ということ。
物語の中心となるのは、「サラ系」と呼ばれる馬たち。書内でも説明があるのだけど、競馬場で走っている馬の主役と言えばサラブレッド。で、そのサラブレッドというのは、どういう風に認定されるのか、と言えば血統。どんなに優れた成績を残そうと血統が不明ならば、それは「サラブレッドではない」とされ、繁殖に上がろうと買い叩かれ、繁殖に上がることすらできないことだって多い。しかし、かつて、日本では血統というものを重視しておらず、明治時代の馬には、血統不明なものも多い。実際にはサラブレッドかも知れないが、血統表がないから……その代表格がミラ……
現代パートでは、そんなミラの血統表が発見された、という情報から小林がその行方を探っていく。しかし、発見された、という牧場の主はすでに他界。その血統表も行方不明。しかし、その牧場の由来などから、本当にあったのではないか? という想いが浮かんでくる。そして、もし、ミラの血統表がもっと早く見つかっていれば、そのせいで不遇をかこったその子孫たちが……という想いにも……
一方、1970年代の大谷。ミラの子孫であるホーリーシャーク。気は荒く、ロクに馴致もされていないその馬。しかし、いざ、乗ってみれば力があるのは間違いないところ。病に倒れた師匠らと、その馬に賭けていく。順調に勝ち星を重ね、クラシックの有力候補とも目されるようになるシャーク。だが、サラ系である、ということで新聞などでは否定的に取られたり……ということも。そんな周囲の目があるからこそ、より、シャークへの思いを強くしていく大谷ら、関係者たち。
本来、強い馬に強い馬をかけることで、より強い馬を、ということで発展してきたサラブレッドの血統。そんな中で、強くても「血統不明だから」と排斥されるサラ系の運命。血統表がある、とされても、本当にその通りかわからないことがある中、何代も前の、ただ1頭の血統が不明だ、という理由で、他の血統はハッキリしているのに……というある種の矛盾。そこに対する、時代を超えた小林、大谷の想い、というのが物凄く熱い。
自分自身、競馬が好き。自分が競馬を見始めた1990年代では、既にサラ系と呼ばれる馬たちはほとんど存在しない状態になっていたのだけど、例えば、自分がリアルタイムで見た馬で言えば、最早、日本独特の血統となってしまったトウカイテイオーやメジロマックイーンなどの父系への応援。はたまた、超マイナー血統から生まれたセイウンスカイ。こういう馬たちへの応援とか、そういうものはずっとあった。彼らもまた、種牡馬として人気になったか? と言えば、だけど……血統が不明、というだけでスタート時点で大きなハンデを背負うことになるサラ系だとすれば……。時代の空気、そして、その中でサラ系と共にいた人々の想い、というのは現代の自分のような人間の想いをはるかに超えて強く残るのだろう。
ただ、大谷の側の1970年代の物語はともかく、小林の方の話の結末はちょっと尻すぼみな感じがしたのは確か。ただ、実際のサラ系を巡る物語という、壮大なドラマがあるため、それは致し方のないところがあるのかもしれない。

No.5577

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