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暴虎の牙

著者:柚月裕子



昭和57年、広島。ヤクザをも恐れぬ愚連隊「呉寅会」を率いる沖虎彦。圧倒的な暴力と、カリスマ性により勢力拡大を果たした沖は、呉原最大の暴力団・五十子会との抗争を開始しようとしていた。そんな彼の前に、広島北署の〇暴刑事・大上が現れる……
シリーズ第3作。
何か、シリーズ完結編と位置付けられているのだけど、あまりシリーズ完結編という感じはしなかったかな? これまでのシリーズは、暴力団と癒着しているとか、色々と黒い噂はありつつも、庶民、堅気には決して手を出させないという大上の活躍を描いた『孤狼の血』。そんな大上の意思を継ぎ、一人、抗争を断とうとする『凶犬の眼』というのが、過去の2作。
勿論、その中で暴力団員であるとかの視点もあったのだけど、あくまでも物語の主役は大上、日岡という風に感じられた。しかし、本作の場合、主人公はあくまでも愚連隊のリーダーである沖であり、大上、日岡は彼の人生を語る上での脇役のように思えた。
で、その(私が主人公だと思う)沖という人物。粗筋で書いたように、圧倒的な暴力とカリスマ性を備えた愚連隊のリーダー。父は、暴力団員であるが、妻子に手を挙げ、その金なども根こそぎ使ってしまうようなクズそのもの。だからこそ、沖は、決して堅気には手を出さず、暴力団などだけを狙ってその力を拡大していった。そして、広島を手にするため、最大勢力である五十子会との抗争を目論んでいた。そんなときに現れたのが大上。
大上とすれば、勿論、沖もまた犯罪者ではあるのだが、一方で彼の心意気というのも買っている。だが、若さで突っ走ろうという沖に対する危うさも感じており、もし、暴力団と本気でぶつかれば……というのも伝え、様々なところで沖の前に現れることに。大上が目の上のたん瘤状態になっていく沖。そして、大上の行動に、身近にスパイがいるのでは? という疑心暗鬼に陥っていくことに。そして、抗争の決着を、というその矢先に……
ここから一気に話は飛び、18年後。刑期を終えて服役を果たした沖。かつての野心は忘れておらず、再び、広島を! と考えるのだが、その前に現れるのはやはり〇暴刑事の日岡……
大上、日岡視点の物語があり、その中で、彼らが沖のことを……というのを読者は知っている。しかし、当の沖は、その気持ちを知らない。いや、それどころか、彼らが現れれば現れるほど、周りが見えなくなってしまう。しかも、作中でも言われる18年間の空白。暴力団を取り巻く情勢の変化。かつての沖は、文字通りにカリスマ性を誇るリーダーであった彼が、後半では時代に取り残された哀れな暴力の塊になってしまっていた、という部分が非常に印象に残る。そんな彼の人生を描いた作品のように思えてならなかった。
そして、そんな結果に導いてしまったのが、大上、日岡。沖の男気、仁義。そういうものを評価していたからこその行動。しかし、その真意は伝わらず、ただ、沖を迷走させてしまった。それは、大上らの失敗の記録、とも取れるかもしれない。
勿論、暴力団ではないとはいえ、沖もまた立派な犯罪者。警察官として、そのままにしておくわけにはいかないわけでもある。そこを考えると、沖という人間の限界、と見ることもまた正しいのかもしれない。

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