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むすぶと本。 『外科室』の一途

著者:野村美月



「本の声」が聞こえる少年・榎木むすぶ。とある駅の貸本コーナーで彼は1冊の児童書と出会う。「ハナちゃんのところに帰らないと」と切羽詰まった様子で訴えかけるその本の願いを叶えるため、持ち主である「ハナちゃん」を探すことにするのだが……。など、連作短編形式の物語。
単行本の『『さいごの本やさん』の長い長い終わり』と同時に刊行された作品。
『さいごの~』の方は、主人公が閉店することになった書店の店員・水海であるのに対して、本作ではむすぶ視点で綴られる。そのため、『さいごの~』では、「もしかすると、むすぶは本と会話ができる?」というくらいだったところが、本作では、むすぶは、本と会話ができる存在、というのが前提となって進んでいく。そのため、やっぱりちょっとカラーが異なっている印象。
でも、本と人間の関係、みたいなところは共通しているな、というのも思う。
粗筋にも書いた第1話『「長ぐつのピッピ」の幸せな日』。持ち主であったハナちゃんは、自分をいつも大切にし、どこにでも持ち歩いていた。そして、元気がないときなどは、自分を読んで元気になってくれていた。しかし、ある時、ハナちゃんは、駅に自分を忘れてしまい……。そんなところから始まった物語は、そのハナちゃんを見つけるのだけど、彼女はピッピを捨てたのだという。その裏にあるのは……
小さいころに出会った大切なもの。それからの卒業(?)と、その一方での未練。本に限った話ではないと思うけど、大事にしていたのだけど、ある日、幼稚だとか思って……ってこともある。でも、本の場合、年を取り、人生経験を積むことで、当時とは違った見方が出来る、なんてこともある。この一編でも、持ち主であるハナちゃんの、いろいろな意味での「成長」というのを思わずにはいられなかった。
芥川龍之介の『羅生門』を題材とした3編目。何かおかしな行動をとるようになった若迫くんという少年。彼は、「本に罹患した」という。一体、何の本に……? まぁ、先に答えを書いちゃったけど。本に触発されて、なんていうことはある。このエピソードではそれがネガティヴに行ってしまったわけだけど、それだけのパワーも、っていうのは感じる。と、同時に、この作品の何が魅力なのか、というのも良く伝わってくる。
そして、表題作。これは、結構、『文学少女』シリーズにテイストが近い印象。一回り年上の司書にずっと片思いをしている大学生・目白川さんの想いを手伝うことにしたむすび。目白川さんが愛読していた『外科室』は一途に彼を応援していた。……までは良いのだけど、そこからの展開が急展開。その年上の司書・鈴江さんの行動などから……。このあたりのひっくり返しの衝撃が印象的。
活動を休止する前から、著者は、先に書いた『文学少女』シリーズとか、本を題材にした作品が多かったのだけど、そのテイストというのがしっかりと継承されているな、というのを感じる。
ただ……本来はヒロイン的な役割の夜長姫(本)が、ひたすら嫉妬しているだけ。そして、それを「可愛い」と言い切るむすぶは、ちょっとおかしい(笑)

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