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天上の葦

著者:太田愛





渋谷のスクランブル交差点で、空を指さして絶命した老人。彼が見ていたものは何かを探れ、という依頼が、興信所を営む鑓水の元へと入る。経営が苦しい鑓水は、その調査を受けることになる。一方、停職中の刑事・相馬は、非公式に失踪してしまった公安刑事の捜索を請け負うことになって……
『犯罪者』、『幻夏』に続く、修司、相馬、鑓水トリオシリーズ(で、良いのかな?)の第3作。
前の作品でも、著者が脚本を手掛けているドラマ『相棒』の、特にスペシャル版っぽい、と書いたことがあるのだけど、本作もそういう印象がある。
物語の導入としては、冒頭に書いた通り。鑓水、修司は、交差点で死亡した老人・正光秀雄の人生から追うことに。亡くなる2年前、心臓発作を起こして引退するまで、現役の医師として活躍。新聞などでも紹介されるような人物であったが、なぜかその前半生については沈黙を貫いていた。その前半生に何があったのか? そして、正光が亡くなった日、彼がどのように行動をしていたのか? そんなところへ迫っていく。一方、失踪した公安刑事・山波を探す相馬もまた、彼の行動を追うことに。その山波が追っていたのは、最近、メディアで引っ張りだこなジャーナリスト・立住と、大麻、さらには児童ポルノ作成事件を起こしていた宗教団体。しかも、事件を追う中で、山波を監視していた存在まで見え隠れし始める。やがて、その鑓水・修司と、相馬、双方の調査が繋がっている、ということが見え始めるが……、その途端3人は追われる身となってしまう……
これが第1部の内容と言えるのだけど、過去がわからない正光。何を追っていたのか? そして、何に追われていたのかわからない山波、というちょっと趣の違う二つの謎が非常にスリリング。それが結びついた途端に、今度は、3人が追う側から追われる側へ、という立場の逆転。ここだけで既に面白い。
そして、追われる立場となった3人が辿り着いたのは、正光が連絡を取ろうとしていた相手・白狐が住んでいると思しき瀬戸内の孤島。ここでは一転して、強いコミュニティが作られた島の人々とのやり取りの中で、誰が白狐なのか? というものを巡る物語に。島の人々との交流。その人々との会話の中で、時系列などを整理して……と、第1部とは違った趣の違う、ある意味、本格ミステリ的な味わいになっているのが印象的。そして、そんな潜伏先も追っ手に見つかってしまって……での第3部へと入るのだけど……
この作品のテーマというのは、色々と考えさせられる。巻末の解説で、戦争責任、という言葉があるのだけど、「空気」という言葉の恐ろしさが身に染みる。太平洋戦争末期、明らかに戦況が悪化しているにもかかわらず、日本は勝っているのだ、信じて疑わなかった人々。そして、少しでも批判的なことを言えば、それは「非国民」として処罰される存在になってしまった。なぜ、そのようなことになったのか? 正光、そして、白狐がそんな時代の渦中にいて感じていた矛盾点。そして、その挙句の後悔。
勿論、彼らのような存在が……というのは間違いないだろう。これを突き詰めると、どこまで? という気がしないでもない、っていうのはあるんだよな。確かに、「きっかけ」としては、正光や白狐らがいたから、というのはあるんだろう。ただ、でもそれだけではないわけで……。きっかけがあり、それに対し人々が支持を与える。その支持を受けて……その循環だったんじゃないか、という気がする。勿論、だからと言って、きっかけの側に責任がないわけではないのだけれども。
ただ、そんな過去を持っているからこその正光の行動。自分の行動に疑問を抱いたからこその山波の行動。その信念は非常に熱いものがあった。実際、現実世界でも本作ほど露骨ではなくとも、こういう動きの傾向というのが見え始めているだけに……。そして、それに反対するような側への一種の嘲笑なんていうようなこともあることを考えると、考えるべき時が来ているのかも、と思わざるを得ない。

No.5596 & No.5597

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