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編集長の条件 醍醐真司の博覧推理ファイル

著者:長崎尚志



フリーの漫画編集者・醍醐真司に舞い込んだ依頼。それは、部数減に悩んでいる青年漫画誌の編集長として、雑誌のリニューアルを果たして欲しい、というものだった。一度は依頼を断る醍醐だったが、前任者が伝説的な編集長と言われた南部という男であること。そして、その南部が「絶対に勝てる案件」を持っていたこと。そして、2カ月前に不可解な死を遂げていたことに興味を持ち、引き受けることにする。一方、書籍に関する調査を請け負う調査員の水野優希は、別件から、南部について調べはじめ……
シリーズ第3作。第1作である『闇の伴走者』以来の、醍醐・優希コンビの復活。
いや、面白かった!
まず、何と言っても、という部分は、醍醐自身のこと。過去の2作、特に1作目の『闇の伴走者』では、博識ではあるけれども我が強く、一緒にいたくない、という風に言われていた醍醐。勿論、我の強さとかはあるのだけど、編集長という立場になり、醍醐の目から見ても「ダメ」と思われる連載作品、それを担当する編集者たちに対し、真摯に、そして、客観的に色々と意見を言っていく姿に、彼の編集者としての有能さ、というのを垣間見ることが出来た。これだけでも、シリーズを読み続けてきての醍醐味を感じた。
で、物語の中心となるのは、醍醐の前任者・南部。醍醐自身、かつて一度だけ会ったことがあり、その毒舌っぷりに「嫌だ」と感じた相手。作品も、編集者も徹底的にこき下ろす、という編集長。しかし、それは昔の漫画雑誌編集長はそういう存在であった、とも言える。しかし、南部について調べれば調べるほどに出てくるのは、「あいつは変わってしまった」というもの。徹底的な現場主義者であり、そのためには上とぶつかることも辞さなかった南部。しかし、前編集長時代は、むしろ上に媚び、下には、という態度で部下、漫画家たちからは徹底的に嫌われていた。果たして、南部は変わってしまったのか?
この南部のキャラクターが何よりも秀逸。昔の彼と、現在の彼。一見、正反対に見える様子。しかし、人間の心というのは、そう単純に語れるものなのか? そんな彼の心情と、まるでそれを写し取ったかのような、南部が目玉にしようとしていた過去の事件の真相が重なっていくのは見事。そして、一見、冷酷に見えた南部のリニューアル策が、やはり人の何倍も漫画を愛していたからこそのものだった……。そして、一方、その南部が死亡した事件の真相。それもまた、人間の強さ、弱さ、その同居した想いが何度も繰り返した結果……
下山事件という現実の事件を一つのキーポイントとして、人間の心情の機微、強さ、弱さとは? というものをしっかりと描き切った筆致が見事!

No.5642

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