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わたしが消える

著者:佐野広実



軽度認知障害があり、将来、アルツハイマー型認知症へと進行する可能性がある。医師から宣告された元刑事の藤巻。そんなとき、彼の元を訪れた看護学生の娘の裕美は、藤巻に一つの頼みごとをする。それは、裕美が実習をしている介護施設に置き去りにされた認知症老人の身元を明らかにしてほしい、というもの。自分にとっての最後の使命ではないか? そう感じた藤巻は、娘の依頼を引き受けることにするのだが……
第66回江戸川乱歩賞受賞作。
著者は過去に松本清張賞を受賞し、島村匠名義で執筆活動をしていた人とのこと。前年・第65回と2年連続で、既にデビュー済みの人が乱歩賞を受賞した、ということになる。
で、物語を読んで、全体を通すと、手堅くまとめてきたな、という印象。
冒頭の粗筋にある通りの形で始まる物語。介護施設に置き去りにされた老人は何者なのか? そもそも、自分で来れるはずがなく、誰かが連れてきたことは確実。まずは、その人物を探すことに。幸いなこと、調べ始めて間もなくにその人物は判明。その人物は、長らく、その老人と同居していたという。しかし、老人は自らの過去について殆ど語らず、老人の持っていた数少ない荷物の中からは多数の人の身分証明書が……
老人は犯罪者なのか? 老人の過去を探るのだが、なぜか調査を依頼したかつての同僚からは、「やめろ」という警告が。それでも、調査を続ける藤巻だったが、彼を止めようとする妨害はより強まっていく。それも、死者を出すような事件まで……。藤巻の周囲で見え隠れする公安の影。さらに公安とすら思えない者まで現れる。そんな中で藤巻は、老人の過去に辿り着く。
特別な思想などがあるわけでもなかった老人。しかし、任務としてたどり着いた場所で人生が大きく変わり、そして見捨てられた。その中で、大切なものも……。認知症になりつつあることを実感し、自らの人生は何だったのか、という思いに囚われる老人。そして、その思いは、同じように組織に裏切られ、認知症になりかけている藤巻にも共感できるところ。忘れがたい過去を持ちながら、認知症により、それが失われていく状況での何とも言えない思い。タイトルの「わたしが消える」が意味するところは凄く切ない。
ただ、事件の真相については、かなり無理があるように思う。一種の陰謀論、というのはさておいても、それだけ強い権力があったとしても、ここまで好き勝手には出来ないと思う。まして、その中心にいた人物は、過去、出世のために何度も……って、さすがにそれはバレるでしょ。そこまで一枚岩になるとも思えないのだし。
老人の過去。調べる中で、そんな彼と自らを重ねていく藤巻。この辺りが凄くよかっただけに、事件の真相の方の弱さが気になった。

No.5667

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