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風はずっと吹いている

著者:長崎尚志



広島郊外、廿日市市の山中で一体の白骨遺体と頭蓋骨が発見された。鑑定の結果、白骨遺体は、50代~70代の白人女性で、死後半年以上が経過。頭蓋骨は、1950年以前に生きていた東洋人のものと判明する。広島県警捜査一課の刑事・矢田は、その女性が誰なのかを調べはじめ、一人の行方不明の白人女性を発見する。一方、元刑事の警備員・蓼丸は、警備を担当した元政治家・久都内の秘書である一人の男に目が行く。その男・土井は、刑事時代、自分の息子が関わってしまった詐欺事件の黒幕として、蓼丸がマークしていた男だった……
かなりの大作。
物語は、粗筋で書いた刑事・矢田と、警備員である蓼丸。そして、しばしば挿入される終戦直後の広島で生きた少年の手記という形で進行していく。
まずは、矢田の物語。白骨遺体で発見された女性は何者なのか? 調べるうちに、2年前に失踪したアメリカ人女性であることが判明。彼女は、終戦直後、広島にいたという父が土産として持ち帰った日本人の頭蓋骨を返しに来たのだという。その女性の足跡を辿る捜査。その中で見えてくる終戦直後、原爆孤児たちの生活。一方、蓼丸が見かけた仇敵とも言える土井。政治家時代から清廉潔白な人物として知られていた久都内がなぜ土井を秘書に? 反戦、反原爆を唱える久都内だが、なぜか右翼活動家ともつながりがあり、そこから彼の過去へと物語が結びついていき……
物語を彩るのは、原爆孤児たちの生きざま。文字通り、原爆によって家族などを失い、街をさまよい歩いていた子供たち。生きるために、犯罪行為などにも手を染め、稼がねばならない。そんな孤児たちをまとめていたのが、来栖という男。彼が中心となり、頭蓋骨を売る、という商売が成立し始める。しかし、そんな来栖には、恐ろしい噂もあった。そして、そんな時代の絆というか、縁というかが、今現在となっても続いていて……。
当時の孤児グループに所属していた人々の現在。そんな彼らが抱えていた秘密。そんな彼らを訪ねる中で命を失うこととなったアメリカ人女性。一体、どこで虎の尾を踏んでしまったのか? 彼らの過去が少しずつ明かされていく中での、しかし、何かがおかしいという感覚。その違和感の正体は何なのか? 原爆孤児については、『はだしのゲン』とかでも触れられている部分がある。ただ、『はだしのゲン』の場合は、当時をリアルタイムで描いた作品なのに対し、本作は現在から当時を俯瞰するからこそ、その後ろ暗い過去を現在まで引きずる様子であるとかが生々しく感じる。来栖についてはともかく、その他の面々の、後ろ盾を持たない孤児たちが生きるためには……という状況と、しかし、それが後々にまで……という皮肉。これは現代を舞台にしているからこそ、だと思う。そして、それは時代は違えども、過去の呪縛に囚われた矢田、蓼丸自身にも繋がっていく。この辺りの描き方が非常に印象に残る。
もっとも、蓼丸が事件に関わるきっかけになった土井の存在とかが終盤、ちょっと疎かになった感じはある。そこは、もうちょっと掘り下げても良かったんじゃないかな? というのは感じたのだけど。
それでも、戦後70年以上を経過しても続いてしまった因縁の物語は読みごたえのあるものだった。

No.5689

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