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善医の罪

著者:久坂部羊



くも膜下出血により意識不明の状態で運び込まれた患者。彼の主治医である脳外科医・白石モネは、延命治療は難しいと判断。家族の同意の末、彼を尊厳死させた。それから3年。モネに反感を持つ麻酔医・大牟田は、彼女がかつて安楽死処置を行った、という看護師の言葉を耳にする。そして、そのことを告発して……
面白かった……というか、考えさせられた。それは確か。
物語のテーマは、医療裁判というか、医療現場と一般、法律などの乖離と言ったところだろうか。
物語のきっかけとなるのは冒頭に書いた尊厳死。脳死状態であり、延命治療をしても意味がない……どころか、より悲惨なことになるだけ。そもそも、病に倒れた本人も、モネに対して無理な延命治療はしないで欲しい、ということを訴えていた。だからこそ、尊厳死を遂げさせることにした。そして、それは多少のトラブルはあったものの無事(?)に目的を果たした。だが……
浮上した安楽死処置をしたのではないか? という疑惑。もし、それが事実であるとすれば、病院としては大スキャンダルに。
病院を守るために、何より自らの保身のために穏便な形で済ませようとする院長。3年前、モネに尊厳死を進めながらも口をつぐむ上司。尊厳死に同意しながらも、補償金を目当てに態度を豹変させる遺族。そして、なぜか自らの指示とは違ったことが書かれている看護記録。そして、騒ぎ立てるマスコミ。安楽死処置をしていない、と主張するモネだが、そんな空気の中、どんどん追い詰められていく。
そして、そんな中での逮捕、裁判……。ストーリーありきで有罪にしようとする検察。裁判の過程の中でモネが感じる、医療現場と世間、法律の乖離という現実。一刻を争う現場で全く意味をなさない手続きの問題。しかし、法律の世界では、その手続きこそが大きな意味を持つ。そんな争いに意味はあるのか? そんなテーマは非常に考えさせられる。普通に働いていても、「それ、意味があるのか?」なんていう手続きがある、なんてことは多いわけだけど(勿論、ミスなどを防ぐために大切、っていうのも多いけど)、専門領域で言い換えれば、素人にはわからない世界だからそういうギャップが大きくなる、というのは確か。そして、それは、病の患者自身に、それを看取る家族にとってはどうなのか? というのは大きな問題として横たわるものだと思う。
そういう意味では、非常に考えさせる作品であるのは間違いない。
ただ、著者自身が医師である。そして、著者の主張である、延命治療とかが必ずしも良いこととは言えない、という部分がメインになるため、どうしても一方的な主張に感じる点。そして、事件のきっかけとなる告発をした大牟田の短絡さ、その存在感の中途半端さ、というのは感じる。話として、大牟田の手を離れた、ということはあるんだろうけど、著者の欠点であるグダグダな結末の一端はどうしても感じてしまう。いくつかの作品よりははるかにマシであるのは確かなのだけど。

No.5732

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